「来られてよかった」 陸前高田市が海上で祈りの会、釜石海保の協力仰ぎ/行方不明者の家族ら乗船

▲ 「早く戻ってきてほしい」という願いを込め、行方不明者の家族らが広田湾洋上で黙とうをささげた

 陸前高田市は24日、釜石海上保安部(吉本直哉部長)の協力を受け、広田湾海上で「祈りの会」を開いた。東日本大震災で行方不明となった市民の家族ら41人が、同保安部の巡視船「きたかみ」に乗船。湾の上で黙とうをささげ、海へ向かって白菊を手向けた。

 震災から5年以上が経過した今もいまだ204人の行方が分からないままの同市。今年3月には同保安部の巡視艇「きじかぜ」と、宮城海上保安部所属の巡視船「くりこま」が広田湾で海中捜索を実施した際、行方不明者の家族らも同行し洋上で献花を行った。市はこうした経緯をふまえたうえで家族らのやるせない思いをくみ、今回も同部へ協力を要請。体験航海という形で、同市初の「海上での祈りの会」が実現した。
 この日は大船渡港から家族らと市の関係者が乗り込み、広田半島や高田松原の防潮堤が見晴らせる沖合で停船。戸羽太市長は黙とうに際し、「皆さまの心が少しでも安らぐようにと、海保にご協力をお願いした。亡くなった方、行方不明の方々の思いに応えるためにも、前を向かねば。これからも捜索を続け、復興を目指していく。ご家族の皆さまに、ご心配を少しでも振りほどいていただきたい」と述べた。
 戻らぬ家族を待つ人たちは、「骨の一片でもいいから、どうか戻ってきて」などと祈りを込めて瞳を閉じ、船上から海へ向かって献花。長い時間手を合わせたり、夫宛ての手紙を見つめる人、抱き合って泣き崩れる人の姿もあった。
 市が用意した花とは別に、持参した花束を広田半島沖の椿島や青松島が見えるあたりで献花した人たちも。広田町根岬出身で、大船渡市末崎町在住の武田トシミさん(87)と仙台市在住の吉田俊枝さん(76)姉妹は、真ん中の兄弟である奏一さん(当時70代)の面影を追って乗船。自分たちの生家が見える広田の沖合で花を手向けたかったのだという。
 2人は「こうした機会を設けていただき、本当に本当にありがたい」と海保職員らにも頭を下げ、俊枝さんは「胸につかえていた重いものが、ほんの少し軽くなった気がする」とにっこり。トシミさんも「この海へ来られてよかった…」としみじみした様子でつぶやき、きょうだいで眺めてきた二つの島を前に、すっきりとした表情でほほ笑んでいた。