気仙における最古の作品か、泉増寺の菩薩立像が10世紀の仏像と判明/陸前高田

▲ 正面から見た泉増寺本尊像(奈良教育大学撮影)

 奈良教育大学(加藤久雄学長、奈良県奈良市)が被災地支援の一環として行ってきた文化遺産調査で、陸前高田市気仙町の泉増寺(金剛寺・小林信雄兼務住職)が所蔵する菩薩型立像が、10世紀前後に造られたものであることが分かった。調査にあたった教授らがこのほど同市役所を訪れ、山田市雄教育長らに報告した。この菩薩型立像は、気仙でこれまでに判明している中では最古の作品とみられ、今後の文化財指定指定調査が待たれる。

 

奈良教大の調査で明らかに

 

 同大は「学ぶ喜びプロジェクト」として、平成24年から同市での研修を実施。学生と教員が「防災教育班」「文化遺産班」に分かれ、その専門性を生かしながら、子ども向け防災教材、同市の文化財に関する資料制作などにあたっている。
 このうち文化遺産班は、造形美術学研究室の山岸公基教授(56)らが中心となり、泉増寺をはじめ、同市小友町の常膳寺、高田町の浄土寺、竹駒町の正覚寺、おとなり住田町にある向堂観音堂などを調査してきた。
 像の材質や仕上げ方法、文様の見極めのほか、ファイバースコープで内部を伺ったり、3Dスキャナーを使って3次元情報も取得するといった専門的調査も展開。これまで研究がほとんどなされてこなかった気仙の仏像について、その成立年代や美術史上の位置づけを明らかにしようとしている。
 山岸教授らは今回、泉増寺本尊である菩薩型立像(伝聖観音菩薩立像)の調査結果を陸前高田市教育委員会へ報告。この仏像が1000年以上前に造られたものであり、「旧陸奥国気仙郡」において、これまで判明している中では最古の作品という点について説明した。
 同像は高さ約16㌢と小さなもので、鋳銅製。火中または土中した可能性があり、表面は摩耗しているという。手法は栃木・安楽寺菩薩形立像や群馬・龍光寺観音菩薩立像に通じ、鞍馬寺(京都市左京区)経塚出土のうち脇侍菩薩立像との類似を示す。
 同市では昨年、常膳寺の十一面観音立像(16世紀制作)、矢作町・観音寺の十一面観音等三尊立像(12世紀制作)が県指定文化財となるなど、身近な仏像の重要性が見直されている。古さだけで価値が決まるものではないが、泉増寺の像も今後の文化財指定調査が待たれるところだ。
 

山岸教授㊧らが訪れ、市教委に調査の経緯や内容などについて報告した=陸前高田市役所

山岸教授㊧らが訪れ、市教委に調査の経緯や内容などについて報告した=陸前高田市役所

この日、小林住職をはじめ調査に協力する地元住民、学生らと市役所を訪れた山岸教授は「県庁所在地から遠いため、気仙では評価が追い付かず、知られてさえいなかった像があることを、この5年の調査で何度も痛感してきた。市民の皆さんの文化財に対する意識底上げに役立てられれば」と語った。 
 山田教育長は「本市はほかの地域と比べても寺院や遺跡、貝塚も多いが、中世あたりのことはスポッと抜けおち、藩政時代以降のことしか知られていないような状態。隠れた資料を解明し、歴史をひもといていただくことは、子どもたちの郷土愛をはぐくむためにも重要なこと」として同大の尽力に感謝した。
 山岸教授は「今回の調査結果は〝一里塚〟に過ぎず、今後もまだ新たに価値ある文化財が気仙から出土しないとは限らない。地域の方の協力のもとに進めてきたことなので、ご要望があれば調査を継続していく」と話していた。