広田診療所長が辞職へ、市当局への不満募らす/陸前高田

▲ 広田地区コミュニティ推進協議会は、広田診療所の今後に関する要望書提出を決めた=広田町

 陸前高田市が運営する国民健康保険広田診療所の近江三喜男所長(68)が、今年12月31日をもって辞職する。同診療所の再建など地域医療をめぐる市当局の対応に不満を募らせ、退職願を提出したもの。9月29日にこれを受理した市は、来年1月以降の診療体制に空白が生じないよう、現在、各医療機関に協力を仰ぎ、後任の医師確保に動いている。こうした事態を受け、地元・広田町のコミュニティ推進協議会(齊藤篤志会長)は市に対し、現状の診療体制維持などを求める要望書を提出することを決めた。

 

地域医療めぐる対応で


 近江所長は平成18年4月に着任。東日本大震災の大津波で同診療所が全壊した直後も、広田小学校の保健室で休みなく診療を続けてきた。加えて町内の信仰や自然について調べてまとめたものを出版するなど、同町に根差した活動を行ってきたことから町民の信頼は厚い。
 しかし、診療所再建など地域医療に対する市当局の対応について不満があったといい、「私にとっては諸事に困難な問題が多く、このまま仕事を続けることは精神的に極めて難しい」として患者に辞意を伝える手紙を送付。「他院への紹介を希望される場合は早めに申し付けいただければ円滑に処理したい」と伝えた。
 新しい診療所は当初、29年3月までの完成を目指していたが、設計変更などがあったことから同年6月に延びる見通し。現在は入札準備を行っている段階だが、近江所長は28年度内に診療所が完成しないこと、同じ敷地内に再建される広田公民館(コミセン)が先に着工したこともショックであったと手紙につづった。
 退職願が提出されるより前、近江所長に辞職の意向があると分かった段階から市当局は、数回にわたって本人と面談。慰留を試みたが、辞職の決意が固かったことから届けを受理したという。
 一方、同町コミュニティ推進協は先月、当局と近江所長それぞれから事実確認を行った。同コミセンに対しては手紙を読んだ町民から「慰留のための署名活動を」と要望も数多く寄せられたが、すでに医師の行き先が決まっていること、市が後任の医師を募っている状況などを鑑み、「翻意は困難」と判断した。
 これらをふまえ先月27日に開かれた役員会では、「現在の利用者が不安を感じないようにすることが先決」として、市に「現状維持」を文書で強く求めると決めた。要望書には後任医師のすみやかな確保、週5日の診療体制維持、訪問診療の継続などを盛り込む。
 さらに、同推進協と診療所の担当部署が随時情報を共有し、連携しながら健全な運営に協力していくという旨の一文も加えた。
 これに関連しては出席者から「近江先生が悩んだり腹を立てたりしたときに、状況を察し、話を聞けるような環境をつくってあげるべきだった。大恩ある人だけに残念でならない」と悔やむ声も上がり、地域全体で診療所を支えていく必要性を確認。今後は町内に回覧板などで周知するとともに公民館長を通じて署名を集め、今月にも戸羽太市長へ提出したいとしている。
 市民生部の菅野利尚部長は「辞表受理をやむなしと判断した市の責任上、地域の医療確保に対し最大限の努力をする」とし、気仙地区全体の医師不足という厳しい環境をふまえながらも、現在の同診療所の患者数などを考慮すると「最低週3日の診療体制を守るべく動いており、まだ確定的ではないが、ある程度の感触はつかめている」と説明。
 また訪問診療についても、「県立病院や(矢作町の)二又診療所、民間の医療機関などからも情報をいただきながら、協力をお願いし、継続できるよう模索している」とする。
 部長は「これまでも、被災者の医療費窓口負担免除継続や子ども医療費給付事業をはじめ、市民が安心して暮らすための医療機会の保証に取り組んできた。診療所の課題解決については『ノーマライゼーションという言葉のいらないまちづくり』の根幹にかかわることであり、市として全力で取り組む」と述べた。