柔道通じ被災地発信、国際大会で陸前高田の映像上映

▲ グランドスラムの会場で再会した岩﨑館主㊨とメスナーさん(右から2人目)ら=東京体育館

 東京体育館でこのほど3日間にわたり開催された国際柔道大会「グランドスラム2016」において、陸前高田市を取り上げたおよそ5分間の映像が上映された。これはIJF(国際柔道連盟)メディア・コミュニケーションディレクター、ニコラス・メスナーさん(43)が昨年、同市を訪れた際の取材をもとにした作品で、「まだ東北の復興は途上にある」「前を向くための心をスポーツが支えている」というメッセージが、世界各地から参加した選手らに伝えられた。

 

IJFのメスナー氏が取材

 

 メスナーさんは平成23年12月に、IJFとフランス柔道連盟による義援金贈呈のため同市を初訪問。順道館岩﨑道場の岩﨑健二館主(75)や市役所職員ら、被災者の言葉に耳を傾けながら市内を視察した。帰国後はIJFのサイトに取材記事を掲載し、被災地の状況を克明に世界へと伝えた。
 競技を通じた教育や社会貢献などに取り組むメスナーさんは昨年、柔道の総本山・講道館の上村春樹館長と、世界的な女子柔道家・谷本歩実さんによる陸前高田でのスポーツ教室も企画。23年の視察以後もずっと同市を気にかけていたといい、教室に合わせて来市した際には、撮影クルーたちと一本松や慰霊施設、仮設の岩﨑道場のほか、地元中学生らを取材した。
 グランドスラム会場で流されたのは、この時の撮影映像をもとに制作されたショートムービー。岩﨑館主や、大船渡東高校1年の大坂あゆみさん(当時高田一中3年)など、道場へ通う生徒も取材されている。
 映像の中では、まだ多くの行方不明者がいること、道場へ通っていた教え子も5人亡くなったことなどが伝えられるとともに、被災直後から岩﨑道場が「青空教室」を始めた点など、競技を通して気持ちを立て直してきたことを発信。大坂さんは、柔道を続けられる喜び、平穏な日々を送れることへの感謝の気持ち、将来の夢などについて語っている。
 メスナーさんは「被災直後は、スポーツや文化的活動をする心の余裕はなかっただろう。だが時間がたつと、そうしたアクティビティーはストレスを軽減するうえで重要」と考え、柔道を通じた〝心の復興〟を強調。同時に、「われわれはあの災害を忘れてはならない」というメッセージを映像に込めた。
 岩﨑館主は、同市柔道協会事務局長の及川満伸さん(53)とともに同大会へ招かれ、試合を観戦。映像は3日間のうち2回、準決勝開始前のインターバル時間に、会場の大型スクリーンへと映し出されたという。
 このことは事前に知らされておらず、「メスナーさんや関係者へお礼を伝える機会と思って行っただけだったので、本当に驚いた」と岩﨑館主。しかし今大会には世界40の国と地域から約300人が出場したうえ、会場にも7000人ほどの観客がいたといい、「多くの人に見てもらえてよかった」と語った。及川事務局長も「会場中が真剣に見入っていた」と、メッセージが人々へ届いた様子を振り返った。
 岩﨑館主は「柔道教室の企画だけでなく、世界中に陸前高田を発信してくれたことに感謝している。メスナーさんはこちらに親しみを持ち、『また機会があれば行くから』と言ってくれている」と話し、この交流が続いていくことを願った。
 この映像は動画サイトYoutubeにもアップされており、キーワード「#JudoForThe
World:Japan」で検索することができる。