名古屋市が陸前高田で企業支援、専門家の無償派遣事業展開

▲ デザイナーの稲波さん㊥と、公認会計士の山田さん㊧が、陸前高田市内の事業者の相談に乗り、アドバイスしてくれる

 東日本大震災発生直後から、陸前高田市を〝まるごと支援〟する愛知県名古屋市は、産業復興にかかる現地企業支援のため、専門家派遣事業を展開している。本年度も計4回にわたり公認会計士とデザイナーが陸前高田を訪れ、経営者や商品開発担当者らに助言。名古屋市は、陸前高田市に本社を置く事業所へ「気軽に相談してほしい」と利用を呼びかける。

 

「事業の悩み 相談を」

 

 東日本大震災の発生を受け、名古屋市は平成23年5月に「陸前高田産業支援デスク」を設置。名古屋市でのイベント出展支援や、商談会開催などを通じ、陸前高田市産品の販路開拓を図るサポートを行ってきた。
 26年からは公認会計士とデザイナーを陸前高田市に派遣し、商品開発や経営に対する助言などを行う「専門家派遣事業」も実施。26年は年3回、27、28年はそれぞれ年4回、同市の事業所への経営改善指導や、商品パッケージデザイン、パンフレットや看板デザインなどに関した相談に応じている。
 本年度も同様に年4回の派遣を予定。7、8の両日は本年度2回目となる相談業務が行われ、名古屋市職員と専門家が陸前高田市の事業所を巡回した。
 同市に本社を、大船渡市に醸造工場を置く酔仙酒造㈱も、同事業を活用し、新商品開発などについて助言を求めている企業の一つ。8日には、㈱RW代表取締役でデザイナーの稲波伸行さん(42)と、山田会計事務所所長の公認会計士・山田英裕さん(41)、名古屋市の職員らが猪川町の大船渡蔵を訪問。総務部総務課の村上雄樹課長(40)らと売り方の手法、社内での意識共有の取り組みなどについて話し合った。 
 村上課長は「震災からこれまでは、以前の商品の復活だけを考えてやってきたが、ある程度のラインアップがそろい、そろそろ次のステップへ進まなければいけない時期にきている」と語る一方で、「何から手を付けたらいいのかや、新しい商品をどうつくっていけばいいのかといったノウハウがなかった」と、同事業を利用したきっかけを振り返る。
 そのうえで「最初は打ち合わせというより、稲波さんや山田さんに愚痴を聞いてもらっていただけだったと思う。そこからさまざまなことを教えてもらう中で、自分たちが今やらなきゃならないことが見えてきた。お二人は他社の事例も数多く知っているので、客観的な視点をもらうことができ、自社について見つめ直す機会になっている」といい、個人的にも意識の変化を感じている。
 稲波さんと山田さんはともに、自身らにできる産業復興支援として派遣事業に名乗りを上げたといい、「困りごとだったらなんでも相談してもらえれば」と同市の事業所に呼びかけ。山田さんは「『誰に相談したらいいんだろう』『こんなことを聞いていいのかな』というモヤッとした悩みでかまわない。こちらの専門分野でなくてもとりあえず話を投げてもらえれば、僕たちも名古屋の人脈や知恵を借りることができる」と請け負う。 
 稲波さんは「会社のことやスタッフのことに関する相談も受けている。全体がうまくいくように整えるのもデザインの仕事」といい、「ちゃんとしたデザインがあることは、必ず事業の武器になり、復興を速いペースで進めることにつながる。被災地の企業にこの事業を活用してほしい」と語る。
 村上課長は「名古屋市の支援は本当にありがたいこと。無償でしていただいていることに対して、きっちり成果を出さなければ恩返しができない。相談することで自分たちの〝尻をたたく〟ことにもなるのでは」と話していた。
 相談したいという陸前高田市内の事業所は、同市企画部商工観光課(℡54・2111内線382)まで問い合わせを。業種などは問わない。