伝承館の学習利用増、「震災語り部」の需要高く/陸前高田(別写真あり)

▲ 武藏さん㊥が、訪れる学生たちに震災当時のことを語り聞かせている=小友町

  陸前高田市小友町の箱根山にある「気仙大工左官伝承館」を訪ねる大学生らが、この夏大幅に増加しているという。夏季休業を利用して被災地を訪れた学生たちの目的は、館長である武藏裕子さん(56)ら、スタッフの震災体験を聞きたいというもの。一度来館した学生からほかの学生たちに評判が伝わるケースも多く、発災6年5カ月が経過した今、若い世代の側にも「災害を風化させてはならない」という意識の高まりがあることがうかがえる。

 

大学生ら繰り返し来館

 

 「今年は特に学生さんが増えたと感じている」と口をそろえる同館スタッフ。7月~8月には、東洋、横浜国立、慶応、お茶の水女子、中央、法政といった首都圏の大学をはじめ、関西、海外なども合わせると、ゆうに10を超す大学から見学の申し込みがあった。米崎町にある「陸前高田グローバルキャンパス」を運営する岩手大、立教大の学生などは、異なるグループで月に何度も訪問。来館予定が書かれた館内の黒板も、さまざまな大学名で9月までぎっしり埋まっている。
 建築関係の学部学科に通う学生や教授らが、気仙大工の手による建造物に関心を持ってやってくるケースもみられるが、来館の目的で最も多いのは、「震災学習の一環として」というものだ。
 同館へは平成23年12月、阪神淡路大震災の被災地である神戸市から分灯を受け、ガス灯の追悼モニュメント「3・11希望の灯り」が設置されて以降、来館者が前の年より1万人以上増加した経緯がある。今も希望の灯り見学者は多く、平日にも遠方からの観光バスが停車するほどだ。
 加えて、この夏は「震災当時の話を聞かせてほしい」という学生グループが増加。21日には専修大学のボランティアサークルVoLoが企画したスタディツアーで、10人の学生が来館した。学生たちは伝統的な母屋のいろりを囲み、発災直後の様子や、同館が避難所となったときのことなどを武藏さんから聞いた。
 同サークルは東日本大震災をきっかけとして23年に発足以来、58回にわたって同市などを訪れており、同館もたびたび利用している。今回は「被災地へ行った経験がない」というサークル外の学生を募集。代表の岩本悠平さん(3年)は、「みんな途中まではワイワイとやってくるが、陸前高田へ入ると明らかにそれまでとは違う雰囲気であることに気づき、口数が少なくなる」といい、震災の傷跡が深く残る同市への訪問が、学生たちに深く考えさせる機会をつくっているとする。
 岩本さんはまた、「先輩から伝承館の話を聞いており、『陸前高田へ来たらまずここ』と定番になっている場所。僕も何度か武藏さんのお話を伺っているが、そのたびに別の話をしてくださるので毎回勉強になる。サークル内でも、代が変わると伝わらなくなってしまうことも多いので、武藏さんのお話を頼りにしている」と、繰り返し訪問する理由を語った。
 同市には、首都圏の学生が中心となって活動する「若興人(わこうど)の家」の拠点があったり、同市のNPO法人SETが広田町内で展開する「スタディ・プログラム」に県外から多くの参加があるなど、若い世代との交流が盛んに行われている。
 こうした機会をとらえて現地へ足を運んだ学生が、大学へ戻ってから同館のことを身内に話したり、フェイスブック、ツイッターといったSNSを通じて発信することで、「ここへ来れば震災について学べる」という評判が広がっていると考えられる。市商工観光課も「大学側へ伝承館をプロモーションしているということはなく、口コミによる効果がほとんど」とみる。
 震災で得た教訓や、自身の経験から役に立ったこと、どんな災害の場合にも当てはまる心構えなどを盛り込んで話している武藏さん。「これまでお話してきたことが、次に結びついているのであればうれしい」と喜びをみせる。
 「震災について学びたいと思っても、そこらの人をつかまえて『聞かせてください』というわけにはいかない。そうしたとき、『伝承館に行けば何か教えてくれる』と思ってもらえれば」と武藏さんはいい、自然災害と防災に対する関心が寄せられ続けることを願う。