第一中では最後の開催に、29回目の全国太鼓フェス/陸前高田市(別写真あり)

▲ 福岡県嘉麻市の「野武士」は、客席からアンコールの声が飛ぶほどの演舞を見せた=高田町

 平成元年に始まり、今年で29回目を迎えた陸前高田市の「全国太鼓フェスティバル」は15日、高田町の第一中学校体育館で開かれた。東日本大震災以降、同体育館を会場として継続されてきたイベント。第一中での開催が最後となる今年は、同校の校章が焼き印で押された記念の「入場手形」を首からぶら下げた人たちが、伝統と創作、いずれの太鼓演奏にも惜しみない拍手を送った。

 同フェスティバルは、市民有志らによる同実行委員会(熊谷政之会長)が主催。会場としていた市民体育館をはじめ市街地が津波にのみ込まれたことから、大震災が発生した23年には名古屋市などの協力を受けて同市で開催し、伝統をつないだ。
 24年以降は第一中体育館を利用。来年は高田町内に完成する新しい体育施設を使うことになるため、今年は入場チケットである「手形」に第一中の校章をあしらうなど、同校に対する感謝も示す催しとした。
 今回は宮城県、新潟県、福岡県と県内から合計10団体が出演。ステージは、日本太鼓ジュニアコンクール全国大会で優勝し、内閣総理大臣賞も受賞した福岡県糸田町の「和太鼓たぎり」の演奏で幕開け。続く宮城県石巻市の「雄勝町伊達の黒船太鼓保存会」は、全国からの復興支援に対する感謝を胸にバチを握り、平均年齢21歳という「Taiko Music XERO」(新潟県糸魚川市)は、バンドサウンドと和太鼓を融合させたスタイルの演目を披露した。
 また、今年は陸前高田市の「氷上共鳴会」と「気仙町けんか七夕保存会」、大船渡市の「大船渡東高校太鼓部」「長安寺太鼓」と、地元団体が4年ぶりにそろい踏み。
 同フェスティバルの運営部分も支える地元団体は、舞台転換などの裏方に徹する年もあった。しかし管外のグループなどから「皆さんが出番の時はわれわれが太鼓を運ぶから、心置きなく出演を」と温かい申し出があったという。舞台では氷上共鳴会の鈴木武幸会長らが、こうした厚意に深く感謝を示す一幕もあった。
 ステージ後半、福岡から車で21時間かけて同市へやってきたという「野武士」は、〝サムライ〟をイメージした骨太な曲調と、男性のみのグループならではの雄々しい演奏で聴衆を圧倒。北上市の「鬼柳鬼剣舞」は、悪魔を踏みしめる勇壮な所作で激しい太鼓演奏にも劣らぬ迫力を見せ、紫波町の佐比内金山太鼓保存会は「自分たちの創作太鼓が、50年、100年後に一つでも〝伝統〟として残っているように」という意気込みを語り、堂々とフィナーレを飾った。
 同フェスティバルは、出演者ごとに世代や構成・演出も異なる点が最大の魅力。数百年の伝統を守り続ける団体、太鼓の新しい魅力を創造しようと模索する団体とさまざまで、会場からは伝統・創作問わず、どの演奏に対しても大歓声と口笛による称賛、拍手が送られた。
 毎年、息子夫婦から入場手形をプレゼントされている大船渡市大船渡町の大久保りつ子さん(63)は、「演奏を聴くとリフレッシュできて、ストレスも吹き飛ぶ。『また一年頑張ろう』という気持ちにさせてくれます」と最前列で演奏を鑑賞。
 孫の優愛さん(大船渡北小4年)は初めて一緒に見に来たといい、「全身に音が響いてきてすごい」と、迫力の演奏の連続に衝撃を受けた様子だった。
 中3の時に初めて同フェスティバルに参加し、これで4回目の出演になったというけんか七夕保存会の黄川田大雅さん(19)は、「最初に出た太鼓フェスがこの第一中体育館だったので思い出深い。いろんな太鼓団体が来ているから、なおさら『地元の太鼓もいい』と思ってもらいたいし、自分たちが伝統を守っていかねばと思っている」と話していた。