視点/災害公営住宅の家賃割り増し㊦

働き盛りに〝住みにくさ〟
多様な世代が混住できる工夫必要


 昨年の段階で災害公営住宅における家賃増の問題を重く見た陸前高田市は、「収入超過世帯」への負担軽減策として、①「収入超過基準」を15万8000円から25万9000円に引き上げる②「みなし近傍同種家賃」を設定する──といった検討を始めていた。
 市建設課によると、①に関しては昨年12月に行われた県と被災自治体による災害公営住宅担当者会議で、他の市町からも県に同様の申し入れがあったという。
 また、②でいう「みなし近傍同種家賃」とは、「その建物が災害発生前の〝平時〟に建てられたとみなし、資材の値上げといった事情を差し引いて試算した近傍同種家賃」を指す造語だ。
 ①に対し県からは先月、「超過基準の引き上げは公平性の観点から困難」と回答があった。しかし、建設費高騰前に建設された釜石市の県営平田アパートの家賃上限を水準とする減免策により、②の「『みなし近傍同種家賃』が採用されたのと同等の措置になった」と菅野誠建設課長は説明する。
 県営、市営ともに平田アパートの基準に合わせると、割り増し家賃の最高額は3DKで7万7400円、2DKが7万1500円、1DKが6万1600円となる。
 平成30年度、大船渡市の災害公営住宅では4団地4世帯、陸前高田市では4団地17世帯が収入超過に該当する見込み。この減免がなかった場合、陸前高田では3DKの家賃最高額が15万円を超える団地があると試算されていたことから、該当入居者からは「どこまで上がるか分かっただけでも違う」「当初言われた額ではとても生活できなかった」などと安堵し、今回の措置を歓迎する。
 一方で、災害公営住宅の住民からの声で多かったのは、「家賃の仕組みがよくわからない」というもの。そのために、「うちも値上げ対象では」と不安を覚える人が多い傾向にあった。
 入居者から「月額所得とは手取りのことなのか」「自分はどの『収入分位』なのか」といった疑問が出てくるのも、震災前まで戸建てに住んでいた市民が多いことを考えればやむを得ないだろう。
 しかし、制度をある程度は理解しておかないと、のちのち慌てることになりかねない。現時点で収入超過基準を超えていなくても、家族構成の変化などで「超過世帯」に区分されることはあり得るからだ。
 公営住宅の家賃は、世帯の所得合計から算出する「政令月収」で決まる。この所得合計とは、収入から税金などを差し引いた額。同居家族がいる場合の家族控除や、16~23歳の特定扶養控除をはじめ、高齢者や障害者がいる世帯はさまざまな控除が受けられる。
 だが、例えば子どもが高校を卒業して同居のまま就職した場合、その時点で特定扶養控除からは外れ、子の収入も世帯所得に合算されるため、算出家賃が変わるのだ。
 世帯の現状と「これから家賃が上がる可能性はあるか」といった将来について把握しておくことは、入居者が今後のライフプランを立てるうえでも重要と言えるだろう。


 

 家賃の値上げは、「収入超過しているといっても、生活に余裕はない」「住宅再建を考えており、負担増は正直厳しい」といった個々の事情を見ても悩ましい。さらには、「やっと落ち着いたのに、一定の収入があり続けると退去しなければならないと聞く。これから年をとる中で、また暮らしが変わるのはつらい」ともらす人も。
 入居開始4年目からの家賃割り増しに加え、住宅の「明け渡し努力義務」が生じる収入超過世帯。入居後5年を経過し、2年連続で世帯の月額所得が31万3000円を超えれば、6年目からさらなる割り増し家賃が発生するとともに、住宅の「明け渡し請求」も行われることになる。
 「働き盛りが暮らしにくい住宅となれば、いずれ行きつくのは低所得の高齢者ばかりの団地ということでは」と、現制度に疑問を呈する住民もいる。
 この指摘は、阪神淡路大震災の被災地・神戸市でも早い段階からなされており、平成7年の発災から23年経過した現在、さらに深刻な課題となっている。災害公営住宅の高齢化率はどこも6割を超え、共用部分の清掃ができなくなるなどしているため、共益費を上げざるを得ない団地もあるという。
 入居者構成が偏っていく未来は、今からすでに想定できる。県外には自治会活動を支える「交流員」を団地に配置するといった取り組みもあるようだが、そうした役目を持つ人を入居可能にするなど、多様な世代・人々が災害公営住宅に混住できるよう、柔軟な発想と対応が今後生まれていくことに期待したい。