安全安心農業 再び活気を、産直・食材供給充実見据え講座開催を〝復活〟/住田町

▲ 講師を務めた木嶋氏㊨、熱心に耳を傾ける住民ら㊦=住田町役場

 東日本大震災前は重点施策の一つに「安全で安心な農業の推進」を掲げ、独自の認証制度も展開していた住田町。近年は原発事故の風評被害などもあって停滞していたが、普及・拡大に向けた動きが再び活発化しつつある。町は15日夜、震災以降は途絶えがちだった農業講座を町役場で開催。安全・安心農業実践者の拡大を図ることで農地利用や産直施設の出品充実を見据えるほか、今後はラグビーW杯や東京五輪に合わせた食材供給も探ることにしている。

 

震災以降の停滞打破へ

 

 町は平成18年に「安全・安心農業ネットワーク会議」を発足。当時はBSEや鳥インフルエンザ問題などへの不安が高まっていた中、専業や兼業農家をはじめ、家庭菜園実践者らが農薬や化学肥料を使用しないで農作物を栽培し、技術の向上を図りながら販路を拡大してビジネス展開していこうと動き出した。
 21年には、町独自の安全安心農産物認証制度をスタート。「農薬・化学肥料不使用栽培」「農薬不使用・化学肥料節減栽培」など栽培過程に応じた格付けを行い、出荷時にこれを知らせるシールを添付する取り組みを進めてきた。
 しかし、23年の震災直後に起きた東京電力福島第一原発の事故により、住田だけでなく東北全体が風評被害を受けた。
 放射性物質による出荷規制などの対応にも追われ、「安全・安心」を打ち出した住田産野菜の展開は下火となっていた。
 近年、町内の農業者がこだわって生産した野菜が高い評価を集めているほか、東北全体の農産品に対する信頼回復も進んだ。
 町内では小規模や兼業での生産が多いが、安全・安心農業の実践は出荷先となる産直施設などの充実につながる。
 さらに、東京五輪・パラリンピックでの選手村などへの食材供給が実現すれば、高品質をアピールする絶好の機会となる。来年のラグビーW杯では隣接する釜石市も会場となるため、大会関係者への食材提供にも関心が高まっている。
 町は本年度、久々となる農業講座を企画。安全安心農産物の需要や動向について理解を深め、生産意欲喚起などにつなげようと参加を呼びかけ、住民ら約50人が出席した。
 講師は公益財団法人農業・環境・健康研究所代表理事の木嶋利男氏(69)=静岡県。同県農業試験場生物工学長、自然農法大学校校長などを歴任し、震災前に住田で講師を務めた経験がある。
 木嶋氏は「日本農業の動向・展望について」と題し、食料自給率の低下など農業を巡る現状を解説。現在、農薬や化学肥料に頼らない有機農業は、国内での実施農家は約1万2000戸にとどまる半面、300万以上とされる家庭菜園実施者の半数は無農薬・無化学肥料栽培を行っているという。
 家庭菜園での推進の重要性を掲げたうえで、「化学肥料が何もなくても育つだけの栄養分が身近にあり、これを利用していくべき」と指摘。山林資源を生かした落ち葉床や、緑肥を生かした土づくり、トマトとラッカセイの混植といった「コンパニオンプランツ」の実践法も紹介した。
 講演後は、出席者から落ち葉集めの注意点や堆肥配合などで質問が相次ぎ、関心の高さをうかがわせた。
 町は新年度以降も、安全・安心農業の普及拡大につながる事業を展開することにしている。