人との絆が再建支え、「鶴亀鮨」中心市街地へ/陸前高田

▲ 鶴亀鮨の〝名物〟である紙テープ。「味と人情の店」をうたう看板に偽りなく、お客さんとの縁を大事にしている=高田町

全国からの応援受け

 

 東日本大震災で被災した陸前高田市の「鶴亀鮨」(阿部和明店主)は24日正午、高田町の中心市街地で本設店舗をオープンする。震災前に賃貸で店を構えていた事業者は国の「グループ補助金」の対象外となり、被災店主らの再建を難しくする要因にもなっているが、鶴亀鮨もそうした苦労を経て再建を果たした店の一つ。被災前後の債務もあり、仮設店舗での営業中も市街地での本設再建については悩み抜いたという阿部店主(65)だったが、ボランティアや観光客など同店のファンである人たちからの応援を支えに、「一日でも長くのれんを出し続けられるよう頑張りたい」と気持ちを新たにする。

 

きょう本設店舗オープン

 

 同店は昭和56年、高田町にオープン。平成23年の大震災で全壊被害を受けた。しかし、借家で営業していた同店は、施設・整備の復旧整備費のうち最大4分の3を補助する国の「グループ補助金」を利用することができなかった。
 震災前、震災後も店を構えるため何度か借金をしており、自力での本設店舗再建は「ほぼ不可能」と阿部店主は考えていた。中心市街地の大型商業施設アバッセたかたへのテナント入居も考えたが、家賃を払えず退去せざるをえない状況となった場合、返済が滞る。悩みに悩んだ。
 風向きが変わったのは平成28年。陸前高田市が「テナント事業費本設店舗建設支援事業」として、店舗整備にかかる費用のうち上限500万を助成する制度を新設したのだ。同店はこれを受け、市街地での再建の足掛かりをつかむことができた。
 本設の新店舗は、本丸公園通りをはさんだアバッセの向かい。隣にはまちなか広場など人が集まる場所があり、ほかの飲食店も軒を連ねる。「中心市街地でやってる皆さんと一致団結して、ここを盛り上げていくんだという気持ち。ただ、不安のほうが大きい」と阿部店主は複雑な表情をのぞかせる。
 一方、「店を支えてくれるのはお客さんと従業員の存在」と語る。仮設店舗時代から、同店は来店者との記念撮影をはじめ、船出などのとき見送りに使う「紙テープ」のサービスなど、心尽くしのもてなしを心掛けてきた。お客さんとの手紙のやりとりも頻繁で、リピーターも多い。
 震災後、一度は店の再開をあきらめた阿部店主を奮起させたのも、営業を続けていく力になったのも、そうした人々からの激励。新店舗の整備にあたっても、看板の文字入れやカウンターの一枚板、座布団などを、遠方の〝鶴亀鮨応援団〟が用意してくれたという。
 「俺はただお客さんとしゃべっているだけ。従業員が頑張ってくれるからこそお客さんに喜んでもらい、励ましてもらっている。このつながりを大事にしていきたい」と感謝する阿部店主。これまでのエールに応えるためにも「ここで長く店をやっていければ」と意気込む。
 同店の営業時間は午前11時30分〜午後2時30分、午後5時〜10時。火曜日定休。