視点/気仙川・大股川の洪水浸水想定区域指定㊤

▲ 県が説明会で示した世田米地区の想定図。町役場をはじめ中心部全域が浸水の想定に


 県が先月下旬から今月にかけて、地域住民らに示している気仙川・大股川の洪水浸水想定区域図。最大規模として「1000年に1度」の豪雨を想定し、流域の浸水高や浸水時間、家屋倒壊などの危険性をまとめているが、住田町では役場など公共施設が集中する世田米の中心部全域で浸水が予想されるなど、防災体制の全面的な見直しが不可欠な内容となっている。高齢化が進み、避難支援も重要となっている中で、住民の命を守り、減災へとつなげる取り組みをどのように進めるか。地域や住民の実情に合わせた、柔軟な体制づくりの必要性が浮かび上がる。(佐藤 壮)


中心部浸水 どう備えるか
示された「1000年に1度」

 

 台風24号が接近した先月30日夜、住田町役場には高齢者を中心に13世帯20人が避難し、一夜を明かした。多くは町社会福祉協議会の職員らに早めの避難を促され、雨脚が強くなる前に訪れた。
 町役場は平成26年度に完成。以降、大雨が予想される時には避難所となり、主に気仙川沿いに暮らす世田米地区の住民を受け入れてきた。これまで示されてきた70年に1度規模の洪水想定では、町役場は浸水地ではなかった。
 しかし、1000年に1度規模の想定では、町役場は3~5㍍の高さで浸水する。消防住田分署や世田米小学校、商店街、福祉施設など中心部に構えるほぼすべての建物が被災する。
 防災業務を担う町総務課の職員は「これを、防災充実の始まりにしなければ」と語る。示された以上、「想定外だった」は許されない。ただ、課題は避難場所確保だけにとどまらない。
 役場周辺に集中している通信体制を、どう守るのか。洪水が襲った後、迅速な復旧活動が求められる中、行政機能をどう維持させるか。孤立した地域の対応は──。さまざまな観点から対策を考えなければならない。

 近年、全国的に局地的な豪雨が頻発し、水害の激甚化が危惧されている。27年の水防法改正などを受け、県では想定できる最大規模の降雨を対象とした区域図公表に向け、作業を進めてきた。今年11月のホームページ公表を前に、9月25日~10月1日に町内5地区で説明会を開き、今月4日からは陸前高田市内でも始まった。
 洪水浸水想定区域は、洪水時の円滑な避難につなげ、被害軽減などを確保しようと、氾らん時の浸水想定区域や深さを示したもの。どこが浸水するかだけでなく、水が引くまでの浸水継続時間や、洪水に伴う家屋倒壊危険ゾーンもまとめた。
 考えられる最大規模として、気仙川・大股川に流域平均で2日間で589㍉の降雨があったと設定。流域全体での降雨を想定しているため、河川氾らんによる大きな被害が生じるとしている。「70年に1度」規模の降雨は、2日間で267㍉だった。
 降水量そのものを見れば2倍以上であり、実感が難しい数字ではある。しかし、西日本では近年、1日だけで降水量が500㍉以上に達する記録的な大雨が頻発。東北でも年平均気温が上昇傾向にある中、決して人ごとの数字ではない。
 県は津付ダム整備の中止を受け、気仙川・大股川流域でおおむね30年に1度の規模で発生する洪水に対応する河川改修を展開。70年に1度規模の改修は、住居などの浸水被害防止対策を優先しながら段階的に着手するとしている。1000年に1度規模の想定に対するハード整備に関しては、現段階では難しいとの認識を示す。
 1日に行われた下有住地区での説明会。住民の一人は「1000年に1度の災害に遭わない場所を考えていては、住む場所がなくなってしまう。情報をいかに早く出すかが重要」と語った。
 県も、説明会の最後に「早めの避難行動」を強調した。住民とすれば、自らの命をまず守る。では、その行動をスムーズにするためには何が必要か。最大規模の想定を考えれば、既存の対応だけでは当てはまらない課題も浮き彫りとなった。