湾内の失われた干潟、再び 市内12地点の造成完了 大船渡

▲ 東日本大震災による消失を受け、市が造成した人工干潟(末崎町山岸)

 大船渡市は、8年7カ月前の東日本大震災による地盤沈下で消失した大船渡湾内の干潟造成事業に取り組み、先月までに対象とした9カ所12地点の整備を完了した。造成を終えた干潟では、湾内の水質浄化に好影響をもたらすとされるアサリの定着が確認されており、市は今後、関係機関と連携しながら漁場としての資源量の維持や増大、同湾の環境改善などに努めていくとしている。

 

震災から8年7カ月
地盤沈下の被害受ける、アサリ稚貝の定着も

 

 大船渡湾内にはかつて、複数の天然干潟があり、漁業者らによるアサリの漁獲が行われてきた。しかし、平成23年の東日本大震災によって地盤沈下が発生し、天然干潟の一部が消失してしまった。
 そこで市は、アサリなどの水生生物の成育環境向上と漁場環境の改善を図ろうと、24年度に人工干潟の造成事業をスタート。厳密な調査、設計を経て赤崎町の7カ所9地点(永浜3、清水2、蛸ノ浦、鳥沢3)、大船渡町の1カ所1地点(珊琥島)、末崎町の1カ所2地点(山岸、神坂)に人工干潟を造成することとした。
 全地点の合計造成面積は約2・38㌶で、このうち干潟部分は約1・45㌶。事業費として8億9435万円を投じた。
 造成工事は、26年度の鳥沢(尾崎神社~湾口・南側)から着手した。
 工事では、生息するアサリを移したあと、造成部分に石を積み上げて囲いをつくり、その中に砂を入れて移したアサリを戻す。囲いの内側には、砂の流出を防ぐシートを敷くなどの対策もとった。
 また、29年度から整備を行った清水(御前島)と鳥沢(尾崎神社鳥居付近)、珊琥島、山岸、神坂には、砂と1年間乾燥させて砕いたカキ殻を7対3の割合で投入。カキ殻を入れることで、アサリ稚貝の定着が促されるという。
 造成は当初、30年度内の完了を計画していたが、山岸と珊琥島は本年度まで工事期間を変更。先月上旬、最後となっていた珊琥島での工事が終わり、すべての対象地点で造成が完了した。
 人工干潟では、整備の際に元に戻したアサリが自然なサイクルの中で増殖している。市は造成を終えて2年が経過した干潟について、28年度から隔月でアサリの資源量調査を順次行っており、30年度からは北里大学海洋生命科学部に委託して進めている。
 現在、調査対象となっているのは永浜(マリーナ北側)、蛸ノ浦、鳥沢3地点の計5地点。
 市によると、全地点で稚貝の定着を確認しているという。
 このうち、30年度に行った鳥沢での調査では、1平方㍍当たり410個のアサリが生息。これは震災前5カ年の平均値463個に迫る数となっており、市は「漁場としての機能はもとより、湾内水質の浄化機能もおおむね順調に回復していると推測している」としている。
 漁業者による漁獲も始まってはいるものの、現在は自家消費が中心。人工干潟の造成完了により、今後は漁場として安定した漁獲量が確保できるかも課題となる。
 また、同湾は外海と接する開口部が著しく小さく、閉鎖性がきわめて高い「閉鎖性海域」であり、市が30年度に行った大船渡湾水質調査では、水質改善策が求められている。アサリは海水の水質浄化効果が高いとされており、今回の干潟造成は湾内の環境改善にも資するものと期待がかかる。
 市は今後もアサリの量や大きさ、成育状況を定点観測していくとともに、砂のみとカキ殻を交ぜた干潟でアサリの定着にどのような違いが見られるかなども調査していく考え。
 北里大には調査のほか、アサリの種苗生産技術の開発研究も依頼しているといい、「今後も関係機関と連携した取り組みを強化しながら、事業成果の向上に努めていきたい」としている。