先代住職の遺志を継ぐ 本称寺で報恩講の花立て(別写真あり)

▲ ベテランの門徒たちとともに報恩講用の仏花を仕立てた証道さん㊨

孫の証道さんが門徒らと

 

 陸前高田市高田町の海詠山・本称寺(佐々木隆道住職)で27日、浄土真宗の一大行事「報恩講」が始まる。これを前に、同寺と門徒らが仏花を仕立て、本堂に飾った。亡き先代住職が研さんし、今の形に仕上げた伝統の「花立て」は、寺と門徒を結ぶ重要な交流機会でもある。携わる住民の高齢化によって継承が危ぶまれていたが、佐々木住職の長男・証道さん(25)が僧侶になる勉強を終えてこの春に地元へ戻り、門徒に教わりながら技術習得に励んでいる。
 門徒に「証くん」と呼ばれ、親しまれる証道さんは、東日本大震災当時、中学3年生。祖父である先代住職の廣道さん、祖母の隆子さん、母の宜子さんを亡くした。証道さんと姉の瑠璃さんは、当時副住職だった父の隆道さん(57)が、門徒たちに支えられながら全壊した寺の再建に努める姿を見てきた。
 廣道さんは、池坊の古典的様式に基づき重要な仏花を飾る「花立て」を、独自の形で再編した〝中興の祖〟。特に、浄土真宗の開祖・親鸞聖人の祥月命日にかかる11月の報恩講は重視されていることから、震災前は何人もの門徒とともに毎年、1週間ほどかけて八つの花瓶(かひん)を仕立てていた。
 同寺では、マツ、イブキ、キクなどの花材を、すべて念入りに整形して生ける。根気と技術のいる大変な作業だが、廣道さん亡き後は、同町の菅野榮雄さん(84)、岡田耕吉さん(83)、佐々木薫さん(80)ら20年以上携わるベテランが隆道さんを励ましながら仏花づくりを引っ張ってきた。
 証道さんは今年の春に陸前高田へUターンし、副住職として学び始めたばかり。3年前から帰省の際には手伝っていたが、今年は初めて最初から最後まで花立てにかかわった。
 マツの枝にキリで穴を開け、松葉がついた枝を刺していくといった「部品づくり」をはじめ、正面から見えない部分にも気を配り、全体を美しく見せるための技術は、一朝一夕では身に付かない──そのことを痛感したと語る証道さん。だが、「七高僧」の掛け軸前に置いた花瓶はほとんど一人で仕上げを任され、しっかり形を整えることができた。
 今年は今月16日から24日まで作業に費やしたが、メンバーは「俺たちの〝孫〟が入ってくれたおかげで、いつもより楽だった」と振り返る。菅野さんは証道さんについて「飲み込みがいい。繰り返しやっていけば覚えてくれるだろう。もう俺は引退できるかな」と笑顔を見せた。
 岡田さんは「この人(証道さん)が中心になることで、これからは若い人たちにも入ってきてもらえれば。震災前がそうだったように、人が集まり、何事もみんなで力を合わせてやっていく寺にしていってほしい」と期待を寄せる。
 証道さんは「まだ一人ではおぼつかない。来年も皆さんと一緒にやらせていただいて、技術を継承したい」と語り、門徒らに敬意を示した。