塩作り コツコツと 三陸町越喜来の杉若さん 沖合の海水生かして15年

▲ 塩作りに励む杉若さん

 大船渡市三陸町越喜来で、昔ながらの手作業にこだわった塩作りが行われている。「三陸の百姓小屋」として野菜などを出している杉若輝夫さん(78)は15年前から、地域住民や地元事業者の協力を得て、ゆっくりと煮詰める地道な作業に励んできた。三陸はかつて、塩の産地としても知られており、伝統継承と地域資源の有効活用への思いを込める。


 越喜来湾を望む浪板地内の斜面に構える自宅脇の作業場では、今月中旬から、杉若さんがまきストーブに向き合い続ける。400㍑の海水を3日ほどかけて煮詰め、にがりを分離させながら、マグネシウムなどミネラル成分を豊富に含ませながら塩を取り出す。
 杉若さんは東京生まれ、愛知育ちで、岩手大学で学び、県の農業試験場に従事。乳牛の飼育指導で国際協力機構(JICA)の活動にも携わった経験も持つ。かねて「海の見える場所で農業を」との夢を持ち、夏虫山でのパラグライダー大会の運営を手伝ったのをきっかけに、平成15年にログハウスを構えた。
 塩作りはもともと、浜仕事や農作業が一段落した冬場を中心に、三陸各地で行われていたという。地域の古老から「今は作っている人がいない。やってみてはどうか」と言われ、住民らから鍋などを借りて同18年から取り組み始めた。塩製造に関する東北財務局への届け出も済ませている。
 「自分一人ではできない。さまざまな方の協力があってこそ」と杉若さん。沖合に海水をくみに行く際には、住民が船を出してくれる。煮詰める作業で必要となる大量のまきは、地元事業者が確保。ストーブなどをつくる鉄工所や、まき置き場を貸してくれる住民にも支えられてきた。
 東日本大震災で越喜来湾の沿岸部は甚大な被害を受け、杉若さんも被災した建物の後方付け作業を手伝った。その時、現場ではヘドロがなく、打ち上げられた砂に異臭を感じなかった。「きれいな海だからこそ、塩を作るべき」と、継続に迷いはなかった。
 煮詰めて取り出した塩は乾燥させ、異物混入の有無などの確認を経て「三陸の海水塩」として道の駅さんりくで販売。うまみを引き出すミネラル成分が多く「やさしい味がする」と好評を集める。
 杉若さんは「身近な海にあるものを生かすことは、国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)にも重なる。地域の恵みを、地球にやさしいエコな作り方で、形のあるものにしたい」と話している。