「差し込み型」成果に関心 地域の空き地生かし造成 市内の2割で実現 防災集団移転促進事業

▲ 「差し込み型」として道路沿いにも1戸単位での宅地を確保した末崎町・神坂での防災集団移転促進事業(市提供)

 東日本大震災被災者の住宅再建策として、気仙両市で展開された防災集団移転促進(防集)事業。震災発生から来月で10年が近づく中、大船渡市で多用された「差し込み型」に関心が高まっている。新たに宅地を造成するだけでなく、高台の既存地域にある小規模の土地にも住宅を建築できるよう整備したもので、市内では全体の約2割で取り入れた。全国各地で豪雨被害が頻発し、新たな大地震・大津波への備えも求められる中、市では地域特性を生かした取り組みとして、さらなる発信を見据える。

 防集事業は、被災した土地の住宅を集団で安全な場所へ移転させるもの。市内では、震災前のコミュニティーをできるだけ維持しながら地域内の高台に移ることができるよう、官民一体となった移転先の選定が進められた。
 国からの補助を受け、市が移転先の土地を取得して道路や水道を整備後、希望者に譲渡か賃借の契約を結んだ。市内21地区・32カ所の団地に366戸を整備し、1カ所平均11戸となっている。
 平成25年3月から団地造成が始まり、順次完成。移転団地の引き渡し後、売買契約を済ませた移転者は、住宅新築に入った。宅地造成は、29年9月にすべて完了した。
 このうち、すでに住宅が立つ高台へ差し込むように配置した「差し込み型」は、約60戸で導入。道路や水道など、現状のままで建築確認申請の許可が見込まれる土地に限定した。
 造成費や水道・道路といったインフラ施設の工事費や、整備期間を抑えられるのが特徴。住宅は地域内に分散した形となってはいるが、社会通念上のコミュニティーの範囲内にとどめ、既存の住宅地などとともに町内会活動が進められる利点もある。
 典型的なリアス式海岸に面している同市は、平坦な土地が少なく、大規模な移転を進めにくい課題を抱えていた。一方、震災直後から、既存地域内に点在していた空き地に注目。発災8カ月後の平成23年11月に差し込み型の事業実施を国に対して要望し、早期に認められた。また、防集事業の移転戸数が10戸以上から5戸以上に要件緩和されたことも、事業推進を大きく後押しした。
 震災後は全国的に豪雨被害が相次ぎ、新たな地震・津波災害への関心が高まっている。「差し込み型」に至った経緯を知り、今後の施策に生かそうと、同市には県外自治体関係者らの視察や問い合わせが増加。市では今後も、独自の住宅再建策として、事前防災や速やかな復興への事例などとしての発信を見据える。
 市災害復興局では「被災者一人一人の震災前の生活体制を維持することがコミュニティーの維持につながるため、差し込み型による早期住宅団地の完成によって、震災前後の日常生活のずれや環境の変化を最小限に抑えることができた」と総括する。
 震災発生から来月11日で10年を迎える中、戸田公明市長も「市民一丸の取り組みの表れであり、協働のまちづくりの貴重な事例。南海トラフ巨大地震による津波の予測もあり、事前復興の一つとして、国内に水平展開してほしい」と、防災・減災につながる広がりに期待を寄せる。