インタビュー2022/挑む気仙人③ 住田町地域おこし協力隊 長沼勇太さん(36)

イチゴ農家で独立目指す

 

 ──住田町がイチゴ栽培の活性化に向けて展開する「ストロベリープロジェクト」を担う地域おこし協力隊員として、昨年3月に着任した。着任の経緯は。
 長沼 北海道出身で、前職が農業機械販売メーカーの営業だった。農業機械を扱っていたことから、農家さんはもちろん、販売店や農協の方と話す機会が多かった。そうしているうちに、自分でも農業について調べるようになり、農業技術などにも興味がわいてきて「自分でも農業をやってみたい」と思ったことがきっかけ。
 ただ、私は非農家の出身。就農するにあたってどうすればいいかと考えた時、農協の研修を受けたり、自費で専門の研修施設で学んだりといろいろなルートがあったが、「地域おこし協力隊」として給料をいただきながら研修を受けさせてもらえるというのが大きかった。
 研修施設の場合だと、アルバイトしながら通わないといけなかったりで、それに比べて住田町の地域おこし協力隊は条件面がよかったことと、一度、見学に来た時にすごく親切にしてもらい「ここでなら存分に学べるな」と感じたのが大きな理由。
 ──着任からまもなく丸2年。北海道から移住し、〝気仙人〟として住田町で暮らしてみての印象は。
 長沼 町営住宅に住んでいる。実際に暮らしてみると、不便さはあるが、身近に山や川などの自然があり、五葉山に登ったりと自然の中での遊びも満喫している。北海道に比べると春が来るのが早く、冬になるのが遅くて、地元との違いを実感している。
 ──イチゴ栽培発展を目指すべく、町内の農家に〝弟子入り〟し、生産技術継承に励んでいる。日々の具体的な活動内容は。
 長沼 基本的には、研修先の農家さんに通って、作業を手伝いながら農業を実体験しながら学んでいる。
 イチゴというのは春の作物なので、普通に栽培すると3~5月の短い期間しか採れないが、ハウスの中を暖房で加温することで、秋から春まで収穫できるようになる。収穫期間はだいたい11月後半から5月いっぱいまでで、その期間は収穫やパック詰め作業に加え、古い葉っぱをかいたり、イチゴもなりっぱなしだと悪い実も出てくるので、不要な実を大きくなる前にとったりしている。
 収穫期間以外では、イチゴの株のランナー(ツルの先にできる子苗)を育苗して次の冬に植え付けたりと、一年中作業がある。
 そのほか、昨年4月からは金ケ崎町にある「県立農業大学校」の研修科で学んでいる。月に3日間、19歳から50代ぐらいまでの、新規就農を目指すさまざまな年代の方とともに、農業で生計を立てるための勉強をしており、今年2月で修了する。
 ──町内では昭和50年代以降、高収益作物の一つとして露地栽培でイチゴ生産に取り組む生産者が増加し、同61年には91戸に達したが、現在は1戸となっている。今後の課題は。
 長沼 イチゴには魅力がたくさんある。生食だけでなく加工しても使えるし、贈ると周りの人からも喜ばれる。作業は時間との闘いで、限られた時間の中でどれだけ手間をかけていいものを作れるかが勝負。夏にはハウスの中が40度近くになったりもするが、その大変さの中にもやりがいや達成感がある。
 課題に関してはイチゴに限らず農業全般に言えることだが、住田町は他の中山間地と同様、日照条件や栽培面積の小ささといった課題がある。
 また、「後継者」という点で見れば担い手不足もあると思う。農業大学に通っていても感じるが、新規就農したい人自体はそれなりにいる。しかし、ゼロから就農するにあたって土地確保の問題などもあって、新規参入の敷居は高いと感じている。
 ──2年目の目標や将来の展望は
 長沼 今年は、研修先の農家さんのハウスを半分貸していただける予定になっており、自分なりにイチゴを栽培して販売まで手がけるので、いいものを作って広く売っていければ。
 やってみないと分からないこともあると思うので、実践して学びながら、将来的にはイチゴ農家として独立し、生計を立てていきたい。(聞き手・清水辰彦)