2010/02/07 001



かくれたるもの

近代化 煙が見えぬ 暮らし向き (佐々木栄) 2009年12月4日
科学技術の発達は生活様式を大きく変えている。昔はどの家庭でも薪や炭で火をおこして食事を作り暖房を確保していたが現代では電気を使ってこれらを行っている。
しかしこの電気力も石油や石炭を燃やしているので、発電所のあるところでは煙が出ている。
現代の人間は薪を集めて火を燃やす生活から離れているので、生活に不可欠なエネルギー問題が直接身に響いてきにくくなっている。

春雨や 人住みて煙 壁を洩る (蕪村
遠い昔から煙は日本の生活の中にしみ込んでおりました。
現代の電気や電子化の生活になって、日常の生活では火と煙は関係が薄くなっております。
しかし、火と煙は自然の中で人間が営むべき生活の基本であります。電化電子化の世になって目先から姿を消している火と煙との関係にあるような大切なものを感じ取る気風が気仙にはのこっております。
冬凪や 岩に隠して 浪の音 (佐藤きよ子) 2009年11月21日
冬の海風はあらく冷たい、夕凪になるとそれが海辺の岩陰に隠れてしまったように一瞬、静かになる。そして夜には再び冷たい風が吹いてくる。

百歳が “自分でする” をじっと待つ レジの後ろに多数を待たせ (田端五百子) 2009年12月2日
百歳の老人が買い物をしてお金の支払いのためレジに並んでいる。
誰の手も借りずに、自分でお金を支払おうとしている。その気迫には積み重なった人生のエネルギーが威厳として込められております。

精神のいちばん美しい特権の一つは、老いて尊敬されることである (スタンダール)
19世紀のフランスの “赤と黒” の作者である小説家、スタンダールは若者の政治的野望とその挫折の物語や恋愛論の中で精神の美しさについて述べている。
室町時代に能を完成させた世阿弥は “秘すれば花” といっているが、これも老いて生の力を秘してこそ美が生まれると言っていることに通じている。


家族のつながり

大家族 いろんな愛が 入り混じり (佐々木多美子) 2009年12月4日
50年くらい前までは気仙には三世代、四世代が一緒に住んでいる家族が多くありましたが現代ではこのような大家族は少なくなっております。
この詠作者の家族は各世代が力を合わせて暮らしているような大家族なのでしょう。

迎え火を たいてる母が 空を見る (田村菜々美・小3) 2009年12月4日
気仙でも盆になると迎え火をたいて先祖の霊を迎えます。小学3年の詠作者は母と一緒に迎え火を焚いて、ふと母を見ると母はじっと空を眺めている。
母は何を思っているのだろうか、この小学生の詠作者は母に後で何を尋ねたのだろうか。

義父義母とこれから共にいきてゆくを 夫が見守るか空に星一つ (村上美江) 2009年12月2日
夫が逝って、残された義父母の世話をしながら夫と築き上げてきたこの家族を守っていく心づもりを詠んでおります。
愛情のある家族を守ることの大切なことは昔から西欧においても同じであることがゲーテの言葉からもわかります。
王様であろうと、百姓であろうと、自己の家庭で平和を見出すものが、一番幸福な人間である(ゲーテ)