2010/03/13 013



詠む つなぐ信頼

もろもろの仏のぐわんはおほけれど たいひのつかひおもきおほいし
2010年1月28日の東海新報に、気仙三十三観音 霊場 巡礼の三十番札所・陸前高田市高田町栃ケ沢の大石観音堂の御詠歌が掲載されている。
この御詠歌には観音様の大慈悲によって導かれている人生の奥にどっしりと深く潜んでいる信頼感情への信仰が詠まれている。江戸時代の観音巡礼者たちの思いは色々な姿で現代社会にも受けつながれている。
「きれいな海を次世代に 環境保全活動の推進に意欲」大船渡市漁協赤崎地区女性部長のインタビュー記事が1月28日の新聞に掲載されている。子を生み、育て、家庭と地域の生活と台所を守ってきた女性グループがリーダ―シップを発揮して、長い歴史を通して恵みを受けてきた海の環境保全に立ちあがりその活動を続けているのである。
同日の記事に「ウニ密度管理で磯守れ 藻場保全へ初の研修会」が掲載されている。この記事は海の自然界の物質と生命の循環を損なわずに人間がどれだけ恵みを受けられるのか、漁業経済と生活とのつながりを謙虚に見極めることへの取り組みである。
このウニ密度管理の取り組み活動の結果を世界へ発信すれば、それは人口増加や地球環境汚染や資源枯渇という世界が抱えている大きな困難の解決に貴重な示唆を与えるものと思われる。
「アイデア豊富 “環境CM” 5年生児童らが制作 ごみや水質問題を身近に」 「8校でサミット 中学生の意見交換会」 「ヨハネスブルグへの旅を読んで」 「大船渡市読書感想文コンクール入賞作品」 など、現在、気仙地域、日本、そして世界が抱えている環境問題人種問題への関心と取り組みを発表している。
これらの気仙地域の人々の関心や取り組みをつないでみると、そこには万年という縄文からの長い歴史の中に伏流として流れている自然への畏敬と感謝、そして人間への愛情と信頼への価値文化があるのではないかと思われる。気仙三十三観音霊場の御詠歌にこの心を感じるのである。


人生の鈴

高田一柳会(新春句会)席題 「鈴」 2010年2月12日
鈴を振り 十五の春に 掌を合わせ (西村千恵)
嫁ぐ日に 我慢の鈴を 渡す母 (武田みつ)
岐路に立つ 時に聞こえる 母の鈴 (佐々木七草)
孫自慢 鈴の音軽い 赤い靴 (佐々木操)
托鉢の 鈴木枯らしの 中に消え (佐々与作)
鈴の音は人生の旅の音色といえます。十五の春の希望の音色、嫁ぐ日の覚悟の音色、家庭を持って苦労に出合っている時の音色、孫への愛情に満ちた時の音色、老いて宗教の世界を身近に感じている時の音色、まさに鈴は人生の巡礼の旅の気持ちを表す音で、色々の響きを奏で、それが感じ取れます。
「自分のサッカーを貫けば道は開ける」 (金野一真、大船渡市読書感想文コンクール入賞作品、2月12日) には “人生、ダメでもともと” というサッカー日本代表選手の遠藤保仁選手の言葉からチャレンジ精神の追求への若者らしい情熱が述べられております。
感心することは、この若さで仏教の深い教えである般若心経にまで触れて述べていることである。論語にある “後生畏るべし” とはこのことをいうのだろう。
同日の随想「藁のホドリ」では5、60年前までは気仙地方にもあった農作業のために畑に出かけるために子どもを入れて家の中に置いていた藁作りの “えんつこ” や藁蒲団のことなど、藁の匂いにまつわる懐かしい話が述べられている。
気仙坂「ああ、カレー焼きそば」にはカレー焼きそば料理を自分で作り、味わうことの楽しみと自分の人生そのものを自分で味付けをする事の大切さを述べている。
鈴の音の記憶、読書の記憶、藁の匂いの記憶、味の記憶、記憶はまさに人生の一里塚である。
1990年にノーベル文学賞を受賞したメキシコの詩人であるオクタビオ・パスは “詩は国の記憶である” と言っている。気仙地方の川柳、俳句、短歌や詩の活動が縄文時代からの埋もれた気仙の記憶を呼び起こすことにつながることを願っている。