2010/04/04 019



鼓動

凧の引く力に鼓動ありにけり (舟野広) 2010年2月26日、みさご句会
鼓動といえば心臓の鼓動が浮かんでくる。哺乳類だと心臓の鼓動回数は一生の間に20億回とされている。ネズミも、人間も、象も、みな同じ回数なのである。
呼吸は4億回、即ち息を1回吸ったり吐いたりする間に心臓は4回打つことになる。呼吸が止まり、心臓が停止すると死に向かうことになる。
凧揚げをしていると凧糸を伝わって風の鼓動が伝わって来る。凧揚げは自然が生きていることを感じさせるのである。「凧の引く力に鼓動ありにけり」。江戸時代に凧を詠んだ蕪村の句 “凧のぼりきのうの空の有り所” は、鼓動を踏まえ、さらに複雑な人間の心の有り方を詠んでいる。


自然の鼓動

雪解水掬ひて吐ひて繰る水車 (上部素間) 2010年2月26日、みさご句会
朝光に心ふくらむ寒雀 (佐々木光子) 2010年2月26日、みさご句会
気仙地方にも50年以上前にはあちこちに水車小屋が見られた。今でも水車が動いているのなら見たいものだ。冬が去り春がめぐって来て、冷たい雪解け水でぐるぐる回っている水車を見ると、自然の鼓動を感じて気持ちが生き生きとしてくる。「雪解水掬ひて吐ひて繰る水車」。
春未だ浅い気仙は寒い。朝の陽の中で雀がチュンチュン鳴いているのを聞くと、そこに自然の鼓動を感じて胸いっぱい春の冷たい空気を吸って気力が満ちて来るのを感じて来る。「朝光に心ふくらむ寒雀」。
2月27日の東海新報「リレーエッセイ五葉山の魅力 五葉山自然倶楽部創立10周年に寄せて」で『縁でつながる五葉山』(宮城県仙台市・村上惠子)が掲載されている。
「『五葉山の魅力リレーエッセイ』は、私たちに “感じる力を取り戻そう” と呼びかけているようにも思います。豊かな自然に抱かれて回復していく感性の力。感じる力は、他者の痛み、悲しみ、苦しみに寄り添える力になり、柔らかで弾みのある社会は想いをはせる心根によってかたちづくられていくことでしょう」と自然の鼓動に触れ、感じることの大切さを述べている。


社会の鼓動

身の丈にあった余生を春耕す (千葉好子) 2010年2月26日、みさご句会
春耕や誘ひあひて老ふたり (森谷璋子) 2010年2月26日、みさご句会
現代の少子高齢長寿社会では就職、結婚、定年、定年後の人生を社会の鼓動を感じて、その社会状況に合わせ設計し、自分に似合った生き方を築かねばならない「身の丈にあった余生を春耕す」。
晴耕雨読、定年後はこれを実行しようと思うが、世間のあれこれに気をとられて、なかなか思うようにはいかない。やはり心を許し、お互いの鼓動を感じあえる友人が必要である。古今東西、朋友の存在の大切なことは昔から言われている。「春耕や誘ひあひて老ふたり」。
同日の東海新報には「ハイチ被災者に義援金 末崎小児童がアルミ缶収集」「旅立ちの味に舌鼓 米崎町 6年生が卒業茶会」「『気仙マスターズ』旗揚げ 陸上競技愛好者で協会設立」が掲載されている。
地域とそれを超えた社会への関心と行動の鼓動が聞こえてくる。海洋循環の長い歴史の中で育まれてきた気仙文化は、世界の先頭に立って自然の鼓動と社会の鼓動を感じて生きる心を育てることを目指さねばならない。