2010/05/09 ● 027
偶然と因縁の絆
2010年4月2日の東海新報５面の文芸欄には「川柳おおふなと（3月）」、随想「『地震・津波』余話」（平山新平）、リアスの国から�供嵎特�家の『家族の絆』」（富谷英雄）、随想「市日のベゴコ」（金野清人）、わんぱく広場「ご先祖様に感謝・大船渡大船渡町」が掲載されている。
現代科学は因縁を超えて偶然の関係世界への研究を進めている。これらの記事も因縁とそれを超えた偶然の関係世界の両方への思いが流れていることが読み取れる。
《夫婦のリズム》
口げんかたまには夫に花もたせ （武田みつ）
倖せのリズムを妻が持っている （佐々与作）
妻の立場からの気持ちと夫の立場からの思いがつながります。女性は人生のリズムのペースメーカーですね。
《春のリズム》
春めくと胸はずませる癖が出る （千葉暘子）
新しい風に会いたく旅に出る （佐々与作）
春になると気持ちが明るくなりウキウキしてきます。人間の気持ちは自然のリズムと深いつながりがありますね。
《夫婦の絆》
円満な夫婦互いにある禁句 （千葉暘子）
円満な夫婦が見せる思いやり （及川剣坊）
夫婦はお互いに触れられたくないものを持っております。その禁句にお互いに触れないという思いやりが夫婦円満の秘訣なのですね。
《信頼と解放》
鼻歌が時々漏れる仕舞い風呂 （武田みつ）
独り酌む夜は静かな曲を選り （佐々木七草）
一日の仕事が終わり、仕舞い風呂にゆっくり入って独りになる時の解放感、これがあると明日も家族のために働く力が湧いてきます。風呂上がりに独り静かに手酌して音楽を聞き、心身を解放するのも明日への力につながりますね。
《年寄りとの絆》
「米谷家の『家族の絆』」で富谷氏は「核家族で夫婦に子どもだけという家庭が増えている中、年寄りが一緒に住むことは子どもたちにはいい影響があるのです」「子どもがいると家庭には笑いがある。年寄りのいる家庭には品がある」というスーパーマイヤ代表取締役社長の米谷春夫氏の言葉に触れて述べている。
夫婦に子どもといった最も身近な家族共同体から祖父母へと共同体の関係を広げることの中に、他人への気遣いや思いやり、そして礼儀といった地域文化につながるものが生まれて来ると述べているものと思う。
《地域の絆》
「市日のベゴコ」で金野氏は盛町の木町の市日に日頃市から峠を越えて出かけて行った幼き日の記憶が、2010年3月6日の東海新報に掲載された「今年一番の暖かさに、きょう『啓蟄』・春の陽気で市日賑わう」を見て蘇り、さらに知り合いの婆さんが猫柳（ベゴコ）を商っている新聞の写真を見て驚いたと述べている。
市日には猪川や立根や日頃市から野菜や草花を、赤崎や大船渡からは昆布やワカメなど海産物を、婆さんたちがリヤカーに積んで来て商っていた。昼頃まで市は大賑わいだった。まさに市日は村々の産物と情報が交換され、そこに地域の絆が生まれて根づいていた。
婆さんの一人は、帰りに我が家によって私の祖母と、お茶と漬物でひとしきり話をしてベゴコを私にくれて村に帰って行った事を思い出した。
このような地域の絆が今も続けられていることは、これからの気仙の地域文化と経済の活性化への大きな基礎力になるものと思われる。
《自然の恵みと脅威そして人間との絆》
平山氏の「『地震・津波』余話」では次のようなことが述べられている。
自然の恵みに慣れてしまうと時として見舞われる自然の脅威への関心が薄れてしまい、地震や津波に襲われると心の準備が立てられずに慌てふためいてしまう。
三陸地方は過去100年にも数々の津波の被害を被ってきた。このような自然の大きな威力の前では人間の力は到底及ばないが、常日頃から突然予告なしに襲ってくる自然災害への準備として、個人、家族、地域のつながりの中でいろいろな智恵の力を汲みあげて、個人、家族、地域で臨機応変にこれらを使えるように準備しておくことが大切であると述べている。
人間社会の存続に必要な人間関係も自然との関係なしにはあり得ないということが肝に響いてくる。地質学的にも歴史文化学的にも長い歴史を持つ三陸気仙地方は自然と人間の間そして人間同士の間の偶然と因縁の両方の絆をしっかりと見据えて、ここから生まれてきた偶然と因縁の絆を世界に発信しなければならないと思う。