2010/08/25 035


東海新報2010年6月10日付 「川柳おおふなと(5月)」 から抜粋。

きわどさ
線を引いている親子の不信感 (佐々与作)
船頭が多く迷走する日本 (千葉佳代)
温度差を上手に埋める年の功 (西村千恵)
老いていく道にマニュアルなどはない (千葉暘子)
人生はきわどい選択の積み重ねです。選択がうまくいく場合といかない場合がありますがそれは紙一重の差です。
「線を引いている親子の不信感」 「船頭が多く迷走する日本」は選択がうまくいかなかった場合を詠み、「温度差を上手に埋める年の功」はうまくいった場合を詠んでおります。「老いていく道にマニュアルなどはない」はこの選別は自分自身ので力を養って行かねばならことを詠んでいる。

素通り
若者の代で素通りする実家 (小泉福冶)
新婚が横目で通る屋台の火 (及川剣坊)
特急が風だけ置いて通りすぎ (西村千恵)
素通りすべきか寄るべきかの見極めにもするどい選別が必要です。
「若者の代で素通りする実家」実家の前を通っても両親もいないし兄弟もいなくなって若者の代になるとついつい素通りしてしまいますね。
「新婚が横目で通る屋台の火」屋台に立ち寄るのは孤独を慰めるときです。新婚さんはスイートホームへ急ぎます。
「特急が風だけ置いて通りすぎ」特急に乗って駅を通過するときと、風を置いて通過する特急を見送るときでは大きな気持ちの違いがあります。素通りするもの、素通りされるもの、立場により感じる世界が違います。


そして次は同日の「川柳高田一柳会(5月)」から。

産 直
産直で鮮度の良さを買ってくる (新沼良子)
産直でばあちゃんの味買って来る (新沼志保子)
産直のお蔭で売れる規格外 (村上萌芽)
産直が掘り出す村の底力 (村上寿恵子)
技術社会の発展と人口数と構成の変化により新しい価値尺度と選択基準がが生まれてきております。過疎化に悩んできた農村の新しい状況を鋭く詠んでおります。


五時に起き母で姑で嫁の役 (佐々木多美子)
どれ一つ欠けても困る五本指 (佐々木七草)
五分と五分夫婦喧嘩を子が裁く (清水恭子)
身体と家族といった身近な世界での均衡調和の世界を詠んでおります。この均衡調和のさじ加減はその家族の文化が決めます。
『きわどさ』 『素通り』『産直』 『五』 … 歴史の流れの中での価値判断の基準の変化を鋭く捉えている題目を選んでおります。くしくも6月10日の同紙5面エッセイでは「チリ地震津波について想う」(笹崎善治氏、大船渡市大船渡町)と題し、地震と津波に対する危機意識を後世に伝えていくことの大切さが掲載されております。
これに響くように「声」の欄には平田栄夫氏の「定住者増への取り組みを」が掲載されており、大自然の中で、技術文化の支えの中で暮らしながら、自然と技術文明の新しい調和を求めて暮らすことが少子高齢社会の問題解決の道につながることの意義を述べております。
気仙地域の生活の知恵に裏打ちされた新しい地域文化価値の創造と価値判断力の育成事業が気仙地域に始まり、これが若い世代に受け継がれて行くことを願っております。