2010/11/18 037 番外編


文化祭を詠む……大船渡第一中学校

大船渡市立第一中学校の約250名にも達する多くの生徒と卒業生から自分たちの文化祭への感想を俳句や短歌に詠んだ作品が送られてきた。どれも若者の素直な感動が溢れている作品であったが、24作品を取りだして、これら作品と作品とが響き合って生み出した心に伝わってくる世界を述べてみたい。

母校の歴史
学び舎の壁や舞台のそこそこで十五の君が輝いて在り (保護者)
今までの歴史の深み感じ取る (3年 男子)
3年生の男子生徒は中学1年、2年、3年と文化祭を経験して、母校の文化祭に流れている歴史のつながりを感じて詠み、保護者の方は母校の第一中学校の文化祭に出かけて校舎をなつかしみ、息子が出演する舞台をみて自分の昔を重ねて、受け継がれている母校の歴史を感じ取って詠んでおります。

つながり
大勢の「HEART」が集った一中祭り (3年 女子)
合唱コン心を一つにポプラの木 (3年 男子)
五十年受けつがれたもの多々光る 次の時代へのたすきをわたす (2年 女子)
ちぎり絵で紙も心も一つにし (1年 女子)
効率とスピードが求められている現代の科学技術文明に生きている中学生たちは、胸の奥底で心が一つに通じ合うものを求めているのかもしれない。それは自分自身の歴史、母校の歴史、地域の歴史、国の歴史、世界の歴史に通じる「つながり」なのかもしれない。

秋の響き
夏終わり虫の鳴き声へるころに ここ一中に響く歌声 (3年 女子)
秋のとき五十年目に響く音 (3年 女子)
秋がきて校舎に響くみんなの声 (3年 女子)
冷やかな空気切りさく美声かな (3年 男子)
さわやかな秋の日の澄み切った空気を伝わって響いて来る虫の鳴き声、文化祭の合唱、そして朗々とした歌声は深く魂を揺り動かします。秋の冷気と歌声はよく響き合います。

あっというまに
文化祭大変だった準備の日 (3年 男子)
文化祭終わるはやさは秋のよう (3年 男子)
一生懸命になって汗を流して準備した文化祭も終わってしまえば、一瞬の間に過ぎ去ってしまった。もう秋が過ぎて冬に向かうのだ。しかし心の奥に何か充実したものが静かに生まれてきている。

秋の感動
秋もゆるみんなと作った文化祭 (2年 男子)
秋の空響きわたったハーモ二ー (1年 女子)
文化祭紅葉にてあざやかに (3年 男子)
感動で紅葉染まる葉五十枚 (3年 女子)
秋の紅葉の美、それは散りゆくものへの哀悼の情が重なって湧いてくる美なのかもしれない。文化祭の感動を秋の空と紅葉に重ねて詠んでおります。

覚悟と期待
文化祭準備の方がおもしろい (2年 男子)
来年はぼくらがつくる物語 (2年 男子)
再来年ああいう劇を作りたい (1年 女子)
文化祭、いいものをつくるぞと覚悟を決めて準備にとりかかる、一生懸命になって準備をしていると充実した気持ちが湧いてくる。文化祭本番の興奮と感動、終われば1年生と2年生は来年の文化祭に期待を込める。素晴らしい中学時代です。

思いをこめる
びんの中集めたビー玉ながめては 思い出すあのかんどうを (2年 女子)
長かった合唱練習今日終わる うれしい気持ちさびしい気持ち (2年 男子)
文化祭へのいろいろな思い、そして感動、これらは過ぎ去れば薄れていく。しかし、何かにこの思いや感動をつなげておきたい。その気持ちを詠めばつながります。

余 韻
合唱のクライマックス指揮を止め 響く余韻を体で聞く (2年 女子)
一中祭終わった後の教室は なんだかいつもなぜか悲しい (2年 女子)
淋しげな夕暮れ空と文化祭 (1年 女子)
うねり上がる感動、終わった後の寂しさ、これら深い感動は余韻を生みます。その余韻は次の感動を生みだすものを孕んでおります。今年の文化祭の感動を詠んだ余韻は来年の文化祭の感動を生みだすものにつながります。
         ◇
文化祭に関する250余りの作品から約10%に当たる24作品を選んで中学生たちの感動の世界と交流を試みました。創立50周年の第一中学校の歴史が生んだ「心」をテーマにして取り組んだ文化祭は時代の問題を先取りしたひとつの野心作でした。演劇、伝統芸能、合唱コンクールと、10代前半の中学生たちの感性と思いが生き生きと発揮されたものであると思います。  この思いと文化祭の感動は詠まれた作品の響き合いの中からにじみ出てきております。少子高齢社会、それに伴う過疎化と地域の活性力の減退の問題が関心を呼んでおりますが、文化祭に発揮されている中学生たちの感性と知力をどのように育てるか、これに問題解決の鍵はあると思います。  行政と学校と地域が力を合わせて、地域の自然と歴史から学んだことを整理して、地域で生きる喜びと学習の喜びを創り出し、「世界に呼びかける気仙文化の創造への挑戦」を実行していく若者を育てる時が来ています。