新市長へ期待する
11月17日付の東海新報の第１面には 「大船渡市長選・候補者のプロフィール」
という選挙記事が掲載されており、その中には同21日の選挙で新市長に選出された戸田公明氏の
「海外経験に地域愛も」 という記事が掲載されている。
厳しいグローバル経済の真っただ中で積み重ねた25年間の海外勤務経験をてこに、気仙地域の活性化を進めたいという考えであった。
少子高齢化の波が日本全体にじわじわと押し寄せてきている。これに加え気仙地域には過疎化の波も重なって押し寄せてきている。この二重三重の難問に対応するには並々の手だてだけでは太刀打ちできない。
建設会社に務めたことのある戸田氏は、このためのしっかりとした “基礎構築工事”
の重要性は十分承知しているものと思う。豊かな自然に恵まれた気仙地域で、生きる喜びと感謝の心を育てること、この地域文化価値教育が
“基礎工事” の重要な柱の一つである。戸田氏の 「地域愛」 はこのことを指しているものと思う。
同日第５面には 「１００万人のふるさと回帰運動」 （大船渡市猪川町、熊谷良平氏＝ふるさと回帰支援センター長）
の投稿原稿が掲載されている。団塊の世代の田舎出身者で、大都会で就職をして定年を迎えた１００万人もの人々が、自分の生まれた古里に帰って暮らしたい気持ちを持っていると述べております。大船渡市でも民間団体がこの活動を行っているという内容でした。
第２面には 「末崎小学校に感謝状 租税教育推進をたたえ 大船渡税務署」 が掲載されている。租税教室は
「税を考える週間」 行事の一環として気仙地区租税教育推進協議会 （会長・今野洋二教育長）
が小・中・高校を対象に毎年開催。税の正しい知識を身に付けてもらおうと、税務署員や県、各市町の税務課職員らを講師として行われている。
この気仙地域における租税教育への取り組みは地球人口増大、自然環境破壊、富の格差の拡大、大国の強引な支配の拡大といった世界が抱えている深刻な問題解決への糸口につながります。大船渡市の新市長に選出された戸田氏なら、世界の建築ビジネス界で活躍してきた経験を生かしてこれらの地域活動をくみ上げ、世界にメッセージとして発信することができると思います。
第３面には 「無火災や防災の意識新た
市消防団結成55周年記念祭 陸前高田市」 が掲載されている。東北の沿岸地帯は数十年ごとに経験してきた地震や津波など自然災害への備えは決して怠ってはならないと先祖代々受け継がれている。
自然の恵みへの感謝と同時に畏怖と備えを忘れないことが地域を支え、そして地域をまとめる力になるものである。来年早々に誕生する陸前高田市の新市長にもこの伝統とまちおこしの新しい取り組みは受け継がれていくものと期待する。
11月19日付の第３面には 「伝えたい米文化 日頃市町鷹生 味まつり」 として
鷹生ふるさと味まつりの写真が掲載されている。五葉山の麓にある日頃市町は鹿踊りや剣舞の伝統芸能が受け継がれている地域である。
すなわち、縄文時代からの鹿、熊、鮭などの狩猟文化と弥生稲作文化の両方を受け継いでいる地域である。この両方の古い歴史と文化を受け継いでいる気仙地域がどのような文化価値観を生み出して世界に発信するか、これは大船渡市、陸前高田市、住田町など気仙地方の行政と住民が一体となって取り組むべき大きな課題であり、世界の国や地域はこのメッセージをしっかりと受け止めると思う。
奇しくも第２面のコラム
気仙坂には 「気仙の起源は “香河 （けせん）” か」 が掲載されている。気仙登場1200年記念講演会（陸前高田市など主催） で講師の国立歴史民俗博物館長・平川南氏は 『続日本紀』 の霊亀元年（715）10月に郡家（郡役所）が設置された陸奥の香河村が気仙郡と切っても切り離せない関係にあるという大胆な仮説を打ち出し、聴衆を驚かせたという。
古文書からの歴史研究、これは歴史研究の重要な方法であるが、文字を持たなかった縄文文化の研究は、民話や神話などの言い伝えや遺跡の発掘などの考古学的方法による研究が必要である。
宗教学者で思想家であり、仏教をはじめ広く世界の宗教を人類学的視点と民俗学的視点から研究している中央大学教授の中沢新一氏は気仙川の鮭にまつわる伝説 （気仙三十三観音霊場巡礼
祈りの道 佐々木克孝 三十三観音霊場巡礼随想詩 気仙巡礼短歌と返歌―歴史の底流を詠む―梅内拓生） は１万数千年も前から歴史の底に流れている環太平洋の神話とつながりがあると述べている （熊から王へ カイエ・ソバージュ �癸加翅�新一 講談社選書メチエ２３９）。
すなわち気仙地方に伝わっている伝説や神話は江戸時代、古代史を遥か超えて、数万年前の世界の人類文化につながるものであると考えると心を深く打つものが湧いてくる。気仙地域の力はこの世界に共通する人類史につながる気仙の歴史の中から生み出した新たな文化価値を、世界に発信することから湧きあがって来る。このための地域文化価値教育の仕組みの早急な立ち上げを新市長の戸田氏に期待する。