エゾイシカゲガイ 人工採苗に成功 日本貝類学会員の高橋さん 陸前高田
令和元年11月2日付 7面

日本貝類学会の会員で、陸前高田市米崎町にある陸前高田グローバルキャンパス管理人の高橋一成さん(52)が、「広田湾産イシカゲ貝」として広田湾漁協(砂田光保組合長)がブランド化を目指す特産品・エゾイシカゲガイの人工採苗に成功した。人工採苗による量産技術が確立されれば、エゾイシカゲガイのさらなる安定生産が可能となることから、生産者らも高橋さんの研究の発展に期待を寄せる。
広田湾漁協がブランド化 安定生産に向け前進
東北大学で水産学を専攻した高橋さんは東日本大震災前、同市にあった「海と貝のミュージアム」に勤務した経験を持ち、現在も同キャンパスにおける管理業務の傍ら、貝類をはじめとした生物などの研究に携わる。
全国で唯一、産業ベースでイシカゲガイを養殖する同市だが、現在は砂を詰めた発泡スチロールの容器を海に沈め、海中に浮遊する幼生がその中に潜り込むことで稚貝を得る天然採苗に頼っているのが実情。年によっては必要数の半分〜3分の1程度しか稚貝が取れないこともある。
このため、同市のブランドとして安定的な生産を目指す広田湾産イシカゲ貝生産組合(熊谷信弘組合長)は、人工採苗が可能かどうかを確かめるため、高橋さんに試験生産を依頼した。
高橋さんによると、イシカゲガイの人工採苗については先行研究が少なく、産業ベースで取り組んだケースもないという。必要な設備などは同組合の協力でそろえ、高橋さんは文献調査などを経て、数通りのパターンで試験生産を開始。1シーズン目の挑戦となった昨年は、人工採苗からおよそ800㍈の稚貝10個を育成した。
2シーズン目の今年は、産卵を誘発するための方法、着底期の飼育方法など、段階に応じて改善を図り、9月には大きさ6㍉〜15㍉程度の稚貝153個を生産することに成功した。
高橋さんは「『人工採苗はできる』と分かった段階にすぎず、種苗を安定供給できるような技術を確立するためには、まだ試験が必要」とする。
熊谷組合長(63)は、「難しいことも多いようだし、いろいろ未知数の段階ではあると思うが、安定供給のうえで種苗確保がネックとなる中、少しでも見通しが立ったということに大きな期待感がある。設備などを整える必要もあるので、組合としてもできる限りバックアップしていきたい」と話す。
高橋さんは「産業ベースに乗せられるよう、どうすれば歩留まりをよくできるかなど、実験を重ねながら探っていく。現状のまま個人で取り組むのには限界があるので、広田湾漁協や市にも協力を仰いでいきたい」と話していた。