大規模園芸施設トマト周年栽培に手応え/陸前高田市
平成27年6月3日付 1面

陸前高田市米崎町に市が整備した大規模園芸施設では、養液隔離栽培システムによるトマトの周年栽培が進められている。特殊なシートを用いて水分や養液を管理することで、トマトの実に養分が集中し、豊かな甘みを誇る高品質品が生まれる。ハウス内には旨みが凝縮された朱色の実が連なり、スタッフが連日収穫作業。関係者は農業振興や施設園芸農業の推進に向け、手応えを感じている。
農業振興の新モデルに
大規模園芸施設は、米崎町川崎地内の東日本大震災浸水域に位置する。振興作物であるトマトとイチゴを栽培品目とし、高品質安定生産や高付加価値化によるブランド化を可能とする周年・養液栽培の技術実証や普及を図ろうと設置した。市は園芸施設のほかライスセンターなども浜田川地区内に整備しており、営農拠点として農業復興や生産技術の普及、園芸作物振興を図る方針を掲げる。
被災地域農業復興総合支援事業(復興交付金事業)で整備。昨年6月から整備を始め、今年1月に整備を終えた。
軽量鉄骨造のハウスで、1号棟の面積は3888平方㍍。イチゴの閉鎖型高設栽培システムが導入された。2号棟は4104平方㍍、3、4号棟はそれぞれ3648平方㍍。2~4号棟にはトマト栽培用の養液隔離栽培システムを整備した。被災低地部でのトマトの周年栽培を目指した取り組みは珍しいという。
管理は㈱JAおおふなとアグリサービスに委託。施設管理に加え、トマトやイチゴの安定生産、高付加価値化を目的とした周年・養液栽培の実証などを行う。新規就農者、被災農業者の受け入れも担う。
トマト栽培では、全国的にも注目を浴びる「アイメック」と呼ばれるシートを用いている。薄いフィルム状でナノ(10億分の1㍍)サイズの穴が無数に開き、水と養分だけを通す。
トマトはシート上に根を張るため、土壌の影響を受けない。水や養液管理は機械で自動化。また、シート越しに水分や養分を吸い上げることでストレスがかかり、植物自らで実への糖分などをつくり出す作用が働く。これにより、甘みや栄養が凝縮された野菜生産につながる。
同施設では竣工前の昨年12月から定植が始まり、4月から収穫が始まった。現在は「フルティカ」と呼ばれる品種を育てる。
ハウス内は土足厳禁で土がまったく見えない環境だが、直径3㌢ほどに成長した朱色の果実が連なる。皮が厚く、日持ちする実が多いという。
毎日約1㌧を収穫し、県内に出荷。実を口にすると、豊かな甘みと適度な酸味が広がり、サラダなどで利用される。
現在はアグリサービスのスタッフ10人余りで従事。伊藤浩喜さん(42)は「新しい農業の形として、若い人たちが農業に積極的に挑戦するきっかけの一つとなれば」と期待を寄せる。
今後、農産物販売などによって得た利益が施設管理運営に必要な経費以上に生じた場合は、市に寄付する。市は、施設を生かした技術普及などに関する取り組みに活用するため、基金に積み立てることにしている。