伝統を受け継ぐ子ども

 祭りシーズンの10月。筆者も大船渡市三陸町吉浜の新山神社式年大祭を取材した。そこで気づいたのが、地元の子どもたちが、少なからず地域の伝統芸能に参加していた点だ。
 筆者の地元・北上市には鬼剣舞が伝わる。教わろうとすれば練習できる土壌はあったが、親不孝ならぬ〝地元不孝〟の筆者は結局、伝統芸能を何一つ受け継がないままになってしまった。
 四つ年上の兄の世代までは、小学校高学年になると鬼剣舞を習い、運動会で披露する伝統があった。だが、筆者が小学校に入ってほどなく、近隣の学校との統合でその伝統がすたれてしまった。似たような例はきっと、どの土地にもあるのではないだろうか。
 なぜ、伝統がすたれたのか。実際に小学生に鬼剣舞を教えていた父親に尋ねると、「統廃合で校区が広くなり、これまでのように少人数の子ども相手にじっくりと教えられなくなった」という事情があったらしい。
 ところで、シンガーソングライター・竹原ピストルさんの歌の中には「〝人とは違う生き方をしてやるんだ〟って 人と同じことを思いながら…」という歌詞がある。今の時代、伝統芸能を受け継ぐことは、むしろ「人とは違う生き方」ではないだろうか。
 数十年も前なら、子どもたちが地域の芸能を引き継ぐのは当然だった。その頃であれば、伝統よりも未来志向で生きるのが、人とは違う生き方だったのかもしれない。
 しかし、それが当然でなくなった現代。伝統芸能を受け継ぐ子どもたちは、当たり前のようで実は人と違う、オリジナリティーあふれる生き方をしているといえる。
 今は少子化に経済の回復に、何かと実効性のある対策が求められている。だからといって、伝統芸能の継承を「目に見える実益がない」と軽視していいはずがない。地元不孝の筆者が主張するのもなんだが、文化を軽んじた瞬間、人間は人間でなくなる。(齊)