長嶋さん叙位の報に
令和7年7月12日付
結論から書くと、今回の小欄では「たいていの物事にはそれなりの理由があるので、根拠のないデマにはだまされないで」と伝えたい。
先月3日に亡くなった長嶋茂雄さんに今月1日、従三位を贈ること(叙位)を政府が閣議決定した。これについてSNSでは、長嶋さんの功績を改めてたたえる声が上がった一方で、「なぜ生前に与えないのか」という批判があった。
この批判についての答えは簡単で、叙位はその人の亡くなった日にさかのぼって行われるものだからだ。功績のあった人の死を悼み、その生涯をたたえる意味合いがあるので、故人が対象となる。もっとも、これは単に「知らなかった」で済む話であり、大きな問題とまではいえない。
しかし、中には邪推する人もいた。「参院選が近いこのタイミングでの叙位は、政治家が人気者の長嶋さんをダシにして、国民の機嫌をとろうとしている」というものだが、ただの偶然であり、論ずるに値しない。
そもそも叙位の手続きは、亡くなった人の関係者が省庁へ書類を提出して始まるものであり、政治家がいきなり決めるものではない。
さらに、省庁を経て内閣府が閣議決定するのだが、ここまでを死亡日含め30日以内に済ませる必要がある。そして、定例閣議は毎週火・金曜日に開かれる。つまり、閣議で長嶋さんへの叙位を決定できる最後の機会がたまたま今月1日だっただけなのだ。したがって参院選とは無関係のデマであり、ともすれば長嶋さんの名誉すらいたずらに傷つけかねない。
もちろん、SNSの投稿に世論としての信頼性がどれほどあるのかという議論はあるが、それについてはまた別の話とさせてほしい。いずれにしろ、単に物事を知らなかっただけなら、調べて覚えれば特に問題ではない。一方で知らないまま訳知り顔をすると、根拠のないデマに取り込まれる危険性が高いので、十分に用心したい。(齊)