令和5年03月25日付

 まいた種が芽吹き、育ち、花開くさまを見るのは、この世にある喜びの中でも至上のものの一つだろう▼それは文字通り植物のことでもあるし、人と人のつながり、地道な取り組みについての比喩でもある▼ここにも一つその事例がある。陸前高田市と名古屋市の中学生による絆交流事業だ▼双方が行き来し、学び合う同事業は平成24年に始まり、本年度で10周年を迎えた。昨年夏には、高校生、大学生となった過去の参加者が加わっての「センパイプロジェクト」も発足した▼先日、両市の「絆の日」を記念したイベント取材のため名古屋を訪れた。そこで防災に関するステージ発表に臨んだのが、この〝センパイ〟ら―絆交流チームSと名付けられた若者たちだった▼当時の中学生がこんなに大きくなって…という中年特有の感慨にふけるより早く、圧倒された。その防災意識の高さ、発信しようという強い意欲に▼生徒らは皆、陸前高田での経験が「人生の転機となり、将来を見定めるきっかけになるほど印象深かった」と語った。そこでの学びをさらに深めたい、次の世代につなぎたいと▼昨夏に陸前高田を再訪したチームSは、中学時代に交流したメンバーとも再会し、絆を結び直したという▼10年前にまかれた種は、陸前高田だけではなく、名古屋でもしっかりと根を張り、大きく花開こうとしているのだ。