令和5年06月05日付
「カエルの鳴き声がうるさい。騒音対策を」と田んぼの持ち主に訴えた匿名の手紙が、ネットで話題になっていた▼差し出した当人に聴覚過敏などがあって、人一倍、音がうるさく聞こえるのかもしれない。ならば気の毒だが、かといってこれは持ち主にどうしろというのか。カエルを駆除せよ、とまあ多分そういうことだろうが…▼カエルは田の害虫を食べてくれる。そしてそのカエルを捕食する鳥類やほ乳類がいる。人の身勝手な都合で食物連鎖を断ち切るわけにはいくまい▼なお、カエルの〝騒音〟に関する判例もある。住人が隣家に対し、カエルの駆除と損害賠償を求めたが、地裁は「カエルの鳴き声は自然音の一つ」として請求を棄却している▼日本人は古来、自然音に音楽を聞き、物語を見出してきた▼虫の鳴き声を聞き分けられるのは、日本人(とポリネシア人)の脳だけ―との研究もある▼多くの民族にとって虫の声などは「雑音」だが、日本人には「言語」と認識されるらしい。だから日本語には犬や猫だけでなく、いろんな生物に関する擬声、擬音語が存在するのだと▼これぞ、自然を愛し、季節の移り変わりを楽しむ風流心がなせるわざ…と言いたいところだが、現代では詩歌をめでる心の余裕が失われ、日本人も無粋になり、その耳も雑音としか聞き取れないよう変化しつつあるのかもれない。