令和6年07月28日付

 「みな人の花や蝶やといそぐ日もわが心をば君ぞ知りける」(皆がいそいそと美しいものに浮かれている日も、あなただけは私の本当の気持ちを知っていてくれるのね)─▼一条帝の愛を一身に受けながら不遇をかこっていた中宮定子が、女房である清少納言のなぐさめに返した歌だ▼どんな時もそばにいてくれた忠臣…いや…〝腹心の友〟への感謝にあふれている。前回の大河ドラマ『光る君へ』ではこの歌とともに、定子と少納言の身分を超えた友情がつむがれた▼同日は中宮の最期も描かれた。辞世の句は「夜もすがら契りしことを忘れずは恋ひむ涙の色ぞゆかしき」(もし夜通し一緒に過ごしたことを忘れずにいてくださるなら、私を思ってあなたが流した、その涙の色を知りたい)▼一条帝に向けた歌だと理解できる。一方、これをさらに深読みした人がいた。「世界でただ一人、清少納言だけはこの歌に別の意味を読み取れたのではないか」というのだ▼ありし日、帝から贈られた高価な紙を何に使おうかと定子に尋ねられた少納言は、「(まさしく夜通し添う)枕でございましょう」と答えている。「夜もすがら」の一言に、この時の会話を思い出さないはずがない─という解釈で、なるほどと感じ入った▼敬愛する姫を思って流した自分の涙の色…彼女は、それをどれほど相手に伝えたかったことだろうか。