「お茶の記録」後世に、気仙茶を守る会「聞き書き集」を発刊

▲ 伝統の継承という意味だけでなく、〝昔話〟としての面白さもある聞き書き集

 北限の茶を守る気仙茶の会(菊池司会長)は2日、聞き書き集『おら家(え)のお茶っこ』を発刊した。陸前高田、大船渡の各家庭に伝わりながら、継承が途絶えようとしている気仙茶づくりの方法や、栽培のルーツ、昔懐かしいエピソード──それらを次代に残そうと会員たちが住民から話を聞いて歩き、一冊にまとめた。読み物としてはもちろん、地域学や民俗学の参考資料としても有用な内容に仕上がっている。

 

人から人へ、受け継ぐ伝統

 

表紙を飾るのは自家製茶作りを続ける大船渡市日頃市町の平山さん夫妻

表紙を飾るのは、かつて自家製茶作りをしていた大船渡市日頃市町の平山さん夫妻

 

 

 同書は、気仙両市でかつて茶作りを経験したことがある人、自家製茶を行っていた人たちへのインタビューや座談会を中心に構成。生活習慣をはじめ年中行事の中に根づいていた茶のエピソード、お茶うけにする食べ物の話と、この地域でどのようにお茶が親しまれてきたかなども総合的に紹介する。

 「聞き書き」とある通り、文章は高齢者を中心とした語り手たちが使う気仙語をそのまま生かした。外の人が読むと分かりにくいのではという懸念もあったが、「まずは地元の人に地元の言葉で伝えたい」「読みながらお年寄りたちの声が聞こえてくるようなものにしたい」との思いを込めたという。

 中にはミニ気仙語辞典もついており、地域の言葉が持つ温かみを再認識することができる。

 「栽培方法も茶木の形状も、茶と向き合う人々のあり方も、ほかの茶産地とは全く異なる点が気仙茶は面白い」という同会事務局の前田千香子さん。同書が作られるきっかけとなったのは、気仙茶の会が「手もみ茶」の製法をきちんと伝え残していかねばと活動していたことからだった。

 この活動の中で、茶作りに関しては実に十人十色、さまざまなエピソードが残っていると知った会員たち。それら一つひとつがとても魅力的で興味深いものであったことから、さらに継承の重要性を認識したのだそう。

 公に記録が残されるわけではない、各家庭ごとの〝伝統〟。誰かの口から何気なく語られ、そこにしっかり耳を傾けることでしか伝わっていかない、茶の製法や心温まる昔語り。長い時間をかけてつむがれてきたお茶の物語を、同会は語り継いでいきたいと考えたのだという。

 インタビューや執筆、写真撮影は会員らを中心に実施。クラウドファンディングで資金提供を募り、制作費に充てた。オールカラーで内容は144㌻にもわたり、どのページ、どの項目にも、「お茶は買って飲むものでにゃ、作って飲むものだぁ」という言葉に象徴されるような気仙の人々の思いがあふれている。

 価格は1冊1500円(税抜き)で、気仙管内の書店でも取り扱い予定があるという。

 同書に関する問い合わせは前田さんへ電話(090・2999・2154)またはメール(kesencha@exite.co.jp)で。