検証・住田町議選㊤/新人1人、 初の無投票 〝人材不足〟浮き彫りに
平成27年9月25日付 1面

住田町議会議員選挙(定数12)は22日に告示され、現職11人、新人1人のほかに立候補届け出はなく、定数と同数による無投票当選が決まった。任期満了による町議選の無投票は昭和30年の町制施行後初めてで、気仙管内の市町議会議員選挙としても前例のないケースとなった。無投票に終わった選挙戦を検証しながら、今後の議会、議員のあり方を探ってみたい。
たった1日の選挙戦本番
町制施行から通算16回目となった町議選。告示を迎えた22日、休日の町内には12人の候補者やウグイス嬢の「お願い」コールが響き渡った。
いずれの陣営も初日から、町内全域を回るルートを計画した。各所で街頭演説を交えた陣営もあれば、「とにかく町内全域にあいさつを」と隅々に選挙カーを走らせたところも。どの陣営も5日間の選挙戦を戦う準備はしていたものの、〝1日限りの舌戦〟になる可能性も見据えていた。
平成23年の前回選まで、候補者数が定数を上回る競争選が繰り広げられてきた町議選。15年以降は毎回定数を1上回るだけの最少数選が続き、定数割れや無投票が危ぶまれてきた。
今選挙においても、早いうちから定数割れが不安視されていた。現職では今年3月末、無所属の荒木久一氏(76)=世田米・5期=が勇退の意向を表明。一方で、新人擁立に向けた動きは鈍かった。
さらに、勇退を視野に入れた上で進退を明らかにしない議員もおり、定数割れへの危機感は高まった。現職の間からは「定数割れだけは避けたい」との話が出るようになり、町内では新人候補擁立に向けた水面下での模索が繰り広げられた。
そんな中、8月中旬に世田米から71歳の新人が立候補を表明。荒木氏の後継として、地域の要請を受けて起意を固めた。
現職も11人が再選への挑戦を決め、告示まで1カ月余りの段階で定員割れの危機は回避された。だが、その後は新たな候補者擁立の具体的な動きは見られず、告示が近づくにつれて〝初の無投票〟が確実なものとなっていった。
結局、新人候補者は過去最少の1人。告示当日、予想陣営のほかに立候補の届け出はなく、午後5時の受け付け終了と同時に現新12人の無投票当選が決まった。選挙戦本番は、たった1日で幕を閉じた。
若い世代の台頭見られず
前哨戦の段階から、無投票の公算が高かった今町議選。選挙戦本番を前に、候補者からは「選挙がない方がいいのも本音だが…」と複雑な胸中を明かす声もあったものの、「地域の活性化を考えても競争選にすべき」「町民に審判を受ける機会があったほうがいい」「1人でも2人でも多く出て政策を訴えるべき」などと、12人全員が「競争選が望ましい」との考えを示していた。
中でも、現職らは新人の擁立に向け、実際に各地で動いた経緯がある。2期以上を務められる若い世代の台頭を望み、男女を問わず、40〜50代を中心とした有望な人物たちに働きかけを図った。一部には議員活動に興味、関心を寄せた人もいたものの、議員報酬の低さや議員としての重責、仕事との両立の難しさ、家族の反対などを理由に立候補には結びつかなかったという。
今選挙での新人候補は、70代から1人のみ。若い世代の中で議員として議会、町政をけん引していこうという人材が不在であり、その掘り起こしと育成という課題が浮き彫りとなった。
町が6月、町内の15歳から50歳未満の若い世代に実施したまちづくりのアンケートでは、およそ6割が「住みやすい」、4割弱は「住みにくい」と回答。自然環境、安全対策、教育、子育て環境などに満足の傾向が示されたものの、公共交通サービスや地域医療、雇用対策などには不満の声も多かった。
町行政のあり方や町に望むことについての自由記載欄には、具体的なまちづくりへのアイデア、評価、将来への不安など、多様な若い世代の考えが見られた。中には、「住みたい町というわりには住みにくい」「若者でリーダーシップをとれる人材を探し、抜擢していけば発展していく魅力のある町になる」「(議会も含む)町政がマンネリ化している」といった厳しい指摘や提言も目についた。
こうして実際に考えを聞けば、若い世代の多くが今後の町のあり方について真剣に向き合い、町政や議会に変化を求めていることが分かる。しかし、そのような思いがありながらも、自らの手で議会に新風を送り込み、町政や議会を変えようとする動きには結びつかなかった。