よみがえった音色 美しく、復活のリードオルガンの演奏会/陸前高田

▲ コンサートでは「ふるさと」などの合唱が行われ、会場は音色と歌声で優しさあふれる雰囲気に包まれた

 陸前高田市高田町の市コミュニティホールで4日、市制施行60周年記念「よみがえった奇跡のリードオルガン演奏会」(市教委主催)が開かれた。気仙で初めて幼稚園を開園した村上斐(あや)氏が使用し、東日本大震災を乗り越え修復を果たした1台。なつかしく、そして美しい音色を響かせ、訪れた人々を魅了した。

 このオルガンは昭和6年から33年まで、私立高田幼稚園や市立高田保育所などで幼児教育の一環で使われた。息子で現在は神奈川県在住の村上三吾(さんご)氏(89)が形見として保管し、平成16年に修復された状態で市立博物館に寄贈。幼児教育の歴史と情熱を伝える存在であり続けたが、震災で被災した。
 状況を伝え聞いた日本リードオルガン協会の関係者が平成24年以降修復に尽力し、昨年冬に陸前高田に〝里帰り〟。多くの人々の熱意が実り、復活を果たした音色を耳にしてもらおうと演奏会が企画され、当時幼稚園や保育園に通っていた市民ら約130人が訪れた。
 本多文人博物館長は「大切な宝。たくさんの思い出が詰まっている」とし、これまでの歴史を説明。昭和24年から10年間勤務していた杉山房子さん(83)=一関市在住=は、当時斐氏が保育振興に向けて注いだ情熱や思い出を振り返った。
 オルガニストの伊藤園子さんらが弾き、斐氏が好きだったという童謡「月の砂漠」などを演奏。全体合唱「ふるさと」も行われ、どこかなつかしく、愛おしい音色に合わせて歌声を響かせた来場者は、さまざまな思いを巡らせた。
 会場では、斐氏を知る市民が再会を喜び合う光景も。リードオルガンの音色は、人々の絆を再び結びつける役割も果たした。

戦中戦後の厳しい情勢下で幼児教育振興に尽力した故・村上斐氏

戦中戦後の厳しい情勢下で幼児教育振興に尽力した故・村上斐氏

被災を乗り越えて修復を果たしたリードオルガン。「海保」製は全国でもこのオルガンを含め、3台しか確認されていないという

被災を乗り越えて修復を果たしたリードオルガン。「海保」製は全国でもこのオルガンを含め、3台しか確認されていないという

 あいさつで斐先生や震災で亡くなった当時の職員の名前を挙げながら「どうぞゆっくり聞いてくださいね」と語りかけた杉山さん


あいさつで斐先生や震災で亡くなった当時の職員の名前を挙げながら「どうぞゆっくり聞いてくださいね」と語りかけた杉山さん

「母が生きていれば、どんなに感激したことか」。こう語りながらじっくりと耳を傾けた三吾さん

「母が生きていれば、どんなに感激したことか」。こう語りながらじっくりと耳を傾けた三吾さん