利便性向上、イメージ…〝次の課題〟どう対応 、JR大船渡線BRT本復旧
平成27年12月27日付 1面
【一部既報】25日に東京・国土交通省で開かれた第3回JR大船渡線沿線首長会議。第2回までの会議内容や各市町での検討結果をふまえた結論は、大方の予想通り「BRT本格復旧」で落ち着いた。ただ、首長やJR幹部らによるハイレベル議論は、持続可能な公共交通輸送を目指す上での選択だけでなく、利便性向上や住民不安解消といった〝次の課題〟も浮き彫りとなった。
7月24日以来となる首長会議には、座長を務める山本順三国交副大臣のほか、戸田公明大船渡市長、戸羽太陸前高田市長、菅原茂気仙沼市長、千葉茂樹岩手県副知事、大塚大輔宮城県震災振興・企画部長(副知事代理)、JR東日本の深澤祐二副社長らが出席。非公開で行われ、1時間弱で終了した。
出席者や国土交通省の説明によると、まずJR側から仮復旧策として運行してきたBRTに関する取り組み状況が示された。住民要望を受けて今月5日に開業した大船渡魚市場前駅や、高校生利用に合わせたダイヤ改正などを報告したという。
引き続き、沿線各自治体首長が前回会議で提案があったBRT本格復旧提案に対する検討結果を報告。戸田市長は「やむを得ない」とし、受け入れ方針を示した。
今月18日、JRに対して持続性確保や利便性確保向上を求める要望書を手渡したことにもふれ、充実に向けた配慮を強調。さらに「今回の会議で決まることを期待している」と述べたという。
戸羽市長はBRT受け入れの声が多い半面、一部区間での鉄路復旧を求める意見も出ていると説明。BRTならば、持続性の担保が必要との認識を示した。
気仙沼市長は「両市の意見を尊重したい」などと発言。岩手、宮城両県も、沿線自治体の判断を尊重する方針が示された。
JRの深澤副社長は戸羽市長からの質問回答の中で、気仙沼─陸前高田駅間における一部鉄路復旧の可能性を否定。「十分なフリークエンシー(運行頻度)が困難となり、利便性が大きく低下する。駅の移設・新設への対応も難しい」と説明した。
仮に陸前高田駅まで鉄路が〝延伸〟しても、同駅で乗り換えの必要が生じる。BRTによって新設された奇跡の一本松駅や高田高校前駅などへの対応も難しくなるとの見通しも示されたという。
戸羽市長は改めて「鉄路復旧の可能性はゼロなのか」とJR側に迫り、「そうです」との答えだったと明かした。
今会議ではJR側から、本格復旧の取り組みとして▽BRT存続▽地域交通の活性化への貢献▽交流人口拡大に向けた利便性の向上▽産業や観光の振興による地域の活性化▽今後の協議──の5項目が示された。このうちBRT存続では「復興に貢献する持続可能な交通手段として、今後も責任を持って運行するとともに、フリークエンシーの確保やさらなる利便性に努める」とある。
地域交通の活性化では、柔軟なルート変更や駅の移設・新設を行うとともに、ほかの地域交通機関と連携した基幹交通の役割を果たす姿勢を明示。このほか、さらなる専用道の整備、新幹線駅へのアクセス利便性向上に向けた検討にも言及した。
最後に山本副大臣が「BRTを受け入れるということでいいか」と出席者に確認。すでに受け入れ表明していた戸田市長だけでなく戸羽市長もうなずき、結論がまとまった。
終了後、戸羽市長は記者団に対し「(結論が)年を越しても何も変わらないのならば、受け入れるしかない。ただ住民には不便や不安があるので、改善を求めていきたい」と語った。
気仙沿岸でBRT運行が始まってから、来年3月で3年を迎える。現在の運行がそのまま本格復旧の形となるのか。それとも、新たな整備を経た形が本格復旧なのか。
会議終了後、JR東日本の深澤副社長は「現在BRTが走り、新駅も継続してつくっている中、お客様の立場から見れば変わらないとは思う。将来、例えば新幹線駅とのアクセスとか、より地元の皆さんのご意見を聞きながら、利便性を向上させたい」と答えた。
三陸鉄道沿線ではない陸前高田市は「鉄路がなくなるまち」となる。これまでの各市での議論では、列車ではたどりつけないというイメージが観光面などにマイナス効果をもたらすのではとの声もあった。
これについて深澤副社長は「イメージの問題は、地元の皆さんからうかがっている。時刻表や地図をはじめ、引き続きしっかりとサービスを提供していることがアピールできる形で進めたい」と語った。
3首長がそろっての復旧議論は今回で終了。今後はJRと各市、関係機関などが個々に利便性向上策を協議する。
ただ、BRTで大船渡、大船渡東高校へと通う生徒たちは、陸前高田市民が多い。同市民からは県立大船渡病院へのアクセス充実を望む声が寄せられるなど、両市民それぞれの利用方法がある。
新幹線が停車する一ノ関駅へのアクセス向上を見据え、各駅停車ではない便や、より時間短縮できる運行ルートの導入を望む声も。利便性向上への議論は、市の枠を超えた広域的な視点も重要となる。
気仙住民の声は
一定理解も要望多岐に
BRT本格復旧の方針決定を受け、気仙住民の反応はどうか。26日、盛駅周辺での買い物のため利用した陸前高田市小友町の70代女性は「自動車の免許が無いので、買い物などでBRTに乗る機会は多い。これまでにもBRTは事故があり、鉄道と違って交通安全面で不安はある。昼時間帯の乗客は少なく、通学、通勤などこみ合う時間帯以外は本数を減らしてもいいのでは」と語った。
週に2、3回BRTを利用するという大船渡町の80代男性は「列車とは違う揺られ方で、乗り心地は良くない。移動する上ではBRTで間に合っている。列車の復旧がかなわないのも仕方ないことだと思っている」とし、会議結果に理解を寄せた。
陸前高田市高田町の主婦(73)は、「陸前矢作から盛までは、高校生の通学に便利なようだからBRTでも構わない」と一部容認しつつ「気仙沼から陸前矢作までは鉄路で復旧を」ときっぱり。「東京へ遊びに行く時もそうだし、帰省する人や観光客も、矢作まで列車で来られれば随分と楽。家の人も駅まで迎えに来やすい」といい、気仙沼からバスに乗り換える〝おっくうさ〟を指摘した。