NHK全国短歌大会で佐藤不二雄さん(三陸町綾里)入選、題詠「一」で秀作と佳作

▲ NHK全国短歌大会で秀作と佳作に入選した不二雄さん

 NHKとNHK学園主催の平成27年度NHK全国短歌大会がこのほど、東京のNHKホールで開かれ、大船渡市三陸町綾里の佐藤不二雄さん(75)の2作品が秀作と佳作にそれぞれ入選した。どちらも「一」をお題に詠んだもので、このうち秀作に選ばれたのは「一分で生を掴みしわが妻は 津波写真に背を向けるいまも」という作品。今大会で秀作に入選したのは県内では佐藤さんただ一人であり、関係者の間に喜びが広がっている。

 

「一分で生を掴みしわが妻は津波写真に背を向けるいまも」

 

 佐藤さんは元大船渡市職員で、退職後にNHK学園の短歌講座を受講。現在は同講座「友の会」会員として読売歌壇選者の小池光氏に指導を受けるかたわら、養護(盲)老人ホーム祥風苑の短歌教室において選者を務めている。

 NHK全国短歌大会の選歌を担当したのは、日本の短歌界を代表する15人。宮中の文化行事である「歌会始の儀」や各新聞社の歌壇に携わる一流の歌人たちが、特選3首、秀作25首、佳作55首をそれぞれ選んだ。

 このうち、佐藤さんの短歌「一分で生を掴みしわが妻は 津波写真に背を向けるいまも」を秀作に選出したのは、若山牧水記念文学館館長、同友の会選者などを歴任する伊藤一彦氏。

 一方、現代歌人協会の理事である大島史洋氏は、同じく「テレビにて見るだけだったスクランブル ハチ公前に一歩踏み出す」を佳作に選んだ。

 東日本大震災による津波で三陸町綾里にあった自宅が全壊した佐藤さん。当時一人で自宅にいた妻・慶子さん(72)は、高台にある避難所に間一髪のところでたどり着いたという。秀作に選ばれた短歌は、津波を写した写真やテレビをしばらくの間見ようとしなかった慶子さんの様子を詠ったものだ。

 東京で開かれた短歌大会へは、慶子さんと2人で出席。入選を知った時のことを、佐藤さんは「『あの作品が?わたしが?』という気持ちだった」と振り返る。

 「祥風苑の短歌教室の生徒たちに喜んでもらえたことが何よりうれしかった」と佐藤さん。

 「今後も短歌の勉強を続け、教室に通う9人の生徒たちと一緒に学んでいきたい」とさらなる向上を誓っていた。