津波救命艇第1号を納品、大船渡・須賀ケミカル産業(別写真あり)
平成28年3月23日付 7面

FRP船建造などを展開する大船渡市赤崎町の㈲須賀ケミカル産業(須賀成道社長)で、重工メーカー大手の㈱IHI(本社・東京)から受注した津波救命艇が完成し、静岡県に納品するため22日に陸送作業が行われた。東日本大震災の教訓をもとに開発され、最大25人が避難でき、流されても浮いた状態で救助を待つことができる。今後の普及と、同社などが持つFRP技術の発信などに期待が集まる。
高い技術力生かし
「浮いて逃げる」25人収容
救命艇は全長9・5㍍、幅3・5㍍、高さ2・95㍍で、空載時の重量は4・0㌧。FRP製で、外観はオレンジ色。内部には25人分の固定座席が設置されている。
1週間程度の漂流を想定し、簡易トイレや備蓄品庫、位置通報装置などもある。津波や流出物による強い衝撃にも対応し、転覆しても元に戻る機能を持つ。
5年前の東日本大震災では沿岸部に位置する同社を含め多くの住宅、事業所が被災したほか、改めて早期避難の重要性が浮き彫りとなった。防潮堤をはじめとしたハード整備の一方、避難所が遠い地域の対応や足腰に不安を抱える高齢者、業務現場に取り残された人々がすみやかに避難できる環境構築といった対策も求められる。

25人分の固定座席があり、津波の衝撃からも身を守る構造=同
IHIが開発した津波救命艇は、衝撃への強さなどを細かく定めた国土交通省による津波救命艇ガイドライン認証を取得。認証を受けた製造事業所の一つに、須賀ケミカル産業が入っている。
南海トラフ巨大地震などへの備えとして、静岡県が御前崎港に配備するためIHIに発注。その製造を託され、昨秋から着手した。
大型化が進む漁船は年間15隻程度の新造船受注に対応するなど、全国から信頼を集める。それでも、須賀正会長(68)は「とにかく安全が求められる。難しい仕事の部類に入る」と振り返る。
震災の教訓をふまえて開発された救命艇とあって、納品前の21日には市民らが工場を訪れ、熱心な表情で見学。このタイプの救命艇としては今回が初の建造で、船内に設置されたプレートの製造番号には「第1号」と刻まれている。
救命艇は、地理的環境や、地域ごとの防災計画にも柔軟に対応しやすいとされる。今後の普及によって、同社が持つ高い技術力への理解浸透、応用の可能性も注目される。
須賀会長は「津波が襲来した際に、一人でも犠牲になってはならない。その一助になれば」と力を込める。