全海岸で防潮堤復旧着手 大規模整備の脇之沢も 12・5㍍直立型、工期32年まで/陸前高田市

▲ 被災した防潮堤を撤去し、海面高12・5㍍で復旧する計画=米崎町

 陸前高田市米崎町の脇之沢漁港海岸で、市が進める海面高12・5㍍の防潮堤復旧整備が工期に入り、発災から5年を経て市内全海岸で着工となった。脇之沢は2区間合わせて全長約1900㍍と大規模で、工期は平成32年10月まで。鉄筋コンクリート直立型で、基礎地盤まで杭を打ち「数十~百数十年」規模で浸水被害を防ぐ。今後工事が本格化する中で、漁業生産活動や防潮堤背後地の利活用、周辺環境との景観調和などへの注目も高まりそうだ。

 

 脇之沢の復旧延長は1858㍍で、沼田・脇之沢地区が1381・6㍍、勝木田(堂の前)地区が476・5㍍。工期は今月16日から32年10月5日まで。鉄筋コンクリートL型擁壁と呼ばれる工法で、市内では気仙町の長部漁港で同様の防潮堤整備が行われている。

 指名競争入札の結果、東亜建設工業㈱・㈱菊池組・㈱共立土木特定共同企業体が落札。108億7992万円で契約した。

 高田松原海岸などでみられる〝台形型〟とは異なり、海岸部での防潮堤用地を最小限にとどめる構造。地中には基礎杭を打ち、強度を確保する。施工中、防潮堤沿いを通る主要地方道や漁港岸壁、作業場利用には支障をきたさない工程で進めるとしている。

 市内の防潮堤整備事業は、建設海岸が大野(広田町)石浜(同)田の浜(同)勝木田(小友町)高田(高田松原)の5カ所で、いずれも県が事業主体。小友農地海岸も、事業主体は県となっている。

 漁港海岸のうち、六ヶ浦(広田町)六ヶ浦本港(同)広田(同)広田後浜(同)長部(気仙町)の5港は県管轄。市は只出(広田、小友町)根岬(広田町)大陽(同)両替(小友町)脇之沢(米崎町)要谷(気仙町)の6港を担う。すでに整備を終えた漁港もあり、その他の海岸でもおおむね29年度までの完了を見据える。

 漁港によっては未着手区間もみられるが、脇之沢だけが全体として工期に入っていなかった。脇之沢は、膨大な工事量に及び、すべて海や漁港部と隣接する海岸線での施工。海洋への影響や養殖に十分配慮した工事が求められ、調査や設計に時間を要した。

 防潮堤の復旧整備は基本的に、各漁港・海岸ごとに家屋被害を受けた住民らの合意を得た上で高さを確定。県や市はこれまで、想定宮城県沖津波をはじめ「数十~百数十年」規模で浸水被害を受けない構造として、設計高を提案してきた。

 23年度から24年度にかけ、海岸周辺で家屋が被災した住民らを対象に説明会を開催。脇之沢における震災前の高さは6・15㍍だった。行政側から「広田湾の一定水準を保つためにも12・5㍍での整備をお願いしたい」と提案があり、出席住民が同意した。高田や両替、要谷でも同じ高さとなっている。

 脇之沢の事業費は震災前の市一般会計予算に匹敵し、4年半の歳月をかけて行われる。平立身市水産課長は「海に加え、被災を乗り越えて漁業に励んでいる生産者に影響を与えないよう、これまで慎重に設計を行ってきた。今後は一日も早い完成を目指したい」と話す。

 広田湾ではカキなどの養殖環境が戻った中、脇之沢での整備に向けた漁業関係者とのこれまでの協議では、海への影響を最小限に抑えるよう要望があったという。漁港に出入りできる陸閘(りっこう)の詳細な位置などは今後検討。本格化に伴い、今後は漁港背後地に広がる被災跡地の利活用や、コンクリート構造の防潮堤と周辺環境の調和のあり方などへの関心が高まりそうだ。