希望の芽吹き信じ、種苗店主の佐藤さん(陸前高田)がバルセロナでスペイン語スピーチ(動画、別写真あり)
平成28年4月13日付 7面

陸前高田市高田町で「佐藤たね屋」を営み、英文による震災手記『The Seed of Hope in the Heart』を書き続ける佐藤貞一さん(61)がこのほど、スペイン・バルセロナへ渡り、スペイン語で震災に関連するスピーチを行った。「心に希望の種がある限り、人はどこでも生きていける」──佐藤さんが震災後ずっと伝え続けてきたシンプルで力強いメッセージは、海を超えてバルセロナの人々の心にも根付いた。
「くじけず、心に種まこう」
今回の訪問は、陸前高田などでボランティアによる「英語音読会」を続ける一般社団法人はなそう基金(古森剛代表理事)と、在バルセロナの日本人グループとの親交がきっかけで実現。同音読会に通う佐藤さんと、県立高田高校1年の紺野有希さんが震災後の支援に対する感謝を伝えるため古森代表らと渡西した。
佐藤さんはバルセロナ在住のアーティストらが立ち上げた東日本大震災支援プロジェクト「Korekara Japon(これからハポン)」の催し、現地で生け花などを教える石松玲子さん主宰の日本文化スクール、在バルセロナ日本国総領事館──の3カ所を会場とし、スペイン語で3回、日本語でも1回スピーチ。紺野さんも感謝のメッセージを英語で述べた。
佐藤さんはスペイン語には全くの不案内。だが「その国の人にはその国の言葉でお礼を伝えたい」という信念があり、一昨年に台湾へ赴いた時も中国語でのスピーチに挑戦した。「勉強してからやろうなどと思ったら、一生書けないししゃべれない。伝えたい内容さえあれば、文法が少々おかしくても理解してもらえる」といい、独学で、間違いをおそれずストレートに気持ちをつづった。
中には「津波くそったれ、おだづな(ふざけるな)」といった強い言葉も。しかしその背後には「負けるものか、ボロは着てても心は錦だ」「はいつくばってでも進もう。心にまいた種からはやがて希望の花が咲き、幸せの実りとなる」という不屈の思いがある。
最後は「生きている。すなわちそれが希望」としめくくった佐藤さん。懸命に生きることで恩を返していきたいという内容のスピーチは、「まさに日本の〝サムライ〟」とバルセロナの人々の心を大きく揺り動かした。佐藤さんの著書『The Seed of Hope in the Heart』スペイン語版にサインを求める参加者たちの姿が、その反響を物語っていた。
最後に待っていたのは、スパニッシュギターのサプライズプレゼント。ギターが趣味の佐藤さんだが、以前所有していたフラメンコ、クラシック、フォークの各ギターはすべて津波で流された。帰国後は「今度彼らが店へ来たら聴かせてやらないと」と、久しぶりのギターの感触を楽しんでいる。
「気持ちに対し、気持ちで応えてくれた」と、スペインでの交流に手ごたえを感じ、新たに結ばれた縁を喜ぶ佐藤さん。「してもらったことに対して直接お礼をするのは当然のこと。ちょっとは〝外交官〟の役割を果たせたかな」と語り、なめらかに弦をつまびいた。