「最後の現役船大工」が実演、特殊な〝焼曲げ〟の技を披露/広田町の村上央さん(73)

▲ 神戸市での船大工企画展に招かれ、特殊な「焼曲げ」を披露した村上さん(左端、竹中大工道具館提供)
村上さんの造船場を表紙に使った企画展のパンフレット

村上さんの造船場を表紙に使った企画展のパンフレット

 「船大工-三陸の海と磯船」がテーマの企画展が、3月26日から今月22日まで兵庫県神戸市中央区の竹中大工道具館で開かれた。同企画展には陸前高田市から現役の気仙船大工が特別ゲストとして招かれ、全国的に職人の高齢化や後継者難などから、いまや消滅寸前にある船大工の優れた伝統の技を披露し、参加した多くの神戸市民の注目と関心を集めた。

 

神戸市で『船大工─三陸の海と磯船』企画展

 

 企画展に招待参加したのは、陸前高田市広田町大祝で村上造船所を経営する村上央(ひろし)さん(73)。村上さんは船大工歴60年近い大ベテランで、船大工グループ・気仙船匠会に所属。
 気仙丸をはじめ、白山丸(佐渡)、浪華(なにわ)丸(大阪)、みちのく丸(青森)など、同船匠会が手掛けた一連の千石船復元建造事業に仲間とともに参加、完成させた実績を持つ。
 企画展は神戸開港150年記念事業として、公益財団法人・竹中大工道具館が主催。
 かつて世界一となった日本の造船業は、江戸期の木造船時代から培われた船大工と鍛冶(かじ)の技により発展し、築かれたとされる。
 今回、特に企画展開催の大きな原動力となったのは、米国コネチカット州出身のジャーナリストで木造船研究家、また自身も船大工でもあるダグラス・ブルックスさん(56)の存在。ブルックスさんは1985年~1990年までサンフランシスコ国立海洋博物館の専属船大工を務めた。
 日本とのかかわりは、平成2年に来日し、佐渡のたらい舟の技術を習得して以来、日本各地の和船技術を学びながら、大船渡市にも何度か足を運び、気仙船匠会とは旧知の間柄。
 ブルックスさんは昨年、東日本大震災で壊滅的な被害を被った三陸地方、中でも広田町の村上造船所を訪ね、村上さんから磯船づくりの指導を受けた。村上さんは震災後約20隻の磯船を建造した。
 もともと震災前から木造船はその役目をほぼ終え、船大工もほとんどいなくなったが、日本特有の歴史ある貴重な伝統技術を保存し、後世に伝える必要がある?というのがブルックスさんの考え。
 約2カ月間に及ぶ企画展では、神戸開港150年記念プレイベント「和船進水式」をはじめ多彩なプログラムが組まれた。村上さんは4月3日(日)の特別講座「船大工が語る海」の中の木工技術「焼曲げ」に〝弟子〟のブルックスさんと一緒に出演し、最後の現役船大工の一人として、見事な技を披露し、参加した市民から拍手を浴びた。
 村上さんは「こんな催しに招かれたのは初めての経験であり名誉なこと。長い船大工人生のいい思い出になった」と話している。