住民や地域の力で実現を、「エネルギーシフト」見据え講演と現場見学

▲ 吉田樹苗などを訪れた見学会=住田町
講演を行った村上氏=陸前高田市

講演を行った村上氏=陸前高田市

 地域に必要なエネルギーを地域資源でまかない、新たな経済的循環も生み出す「エネルギーシフト」に向けた講演会と現地見学会が24、25の両日、陸前高田市や住田町で行われた。講演会ではドイツ・フライブルク在住のジャーナリスト、環境コンサルタントの村上敦氏が、住民や地域が主体的に取り組む重要性を発信。林業関連の産業現場や施設を回る見学会も行われ、参加者は気仙での推進につながる道筋を探った。

 

地元若手組織が企画

 

講演会は「村上敦氏が語る ゼロから始めるエネルギーシフト~エネルギーが変わると人・街・未来が変わる!?」と題し、陸前高田青年会議所と県中小企業家同友会が主催した。近年、注目が高まっているエネルギーシフトへの重要性や必要性に気づく機会を提供し、気仙全体の活性化につなげようと企画。会場の同市コミュニティホールには、約300人が訪れた。

 村上氏は昭和46年生まれ。ドイツ・フライブルク地方市役所・建設局で勤務した後、平成14年に独立した。
 以降、フリーライターとしてドイツの環境・都市計画施策を日本に紹介。環境に配慮した自治体の土地利用計画、交通計画、エネルギー政策を専門分野としている。
 講演で村上氏は、ドイツでは電力消費に占める再生可能エネルギーの割合が25年前までは水力中心の3%程度だったが、陸上風力やバイオマス、太陽光発電事業などが進み、昨年は30%超に成長したと説明。増えた分の発電事業投資には、地域住民や農業者、地域の中小企業などが多くかかわっている現状にふれた。
 一方で日本は、地方での風力、太陽光発電整備であっても地元外資本の割合が高い現状を指摘。「技術の転換ではなく、経済の仕組みを変えようとしているのがエネルギーシフト。地域の中で合意し、話し合い、みなさんがお金を出してつくるという形でなければ」と語った。整備によって地域景観などへの悪影響も懸念される中、各種課題克服にもつながるとして地域住民が主体的に参画する体制づくりを強調した。
 ドイツで100世帯ほどの集落が地域内熱供給事業を展開している取り組みも紹介。講演の冒頭には、高台やかさ上げ造成地での住宅再建が進む中、同市をはじめとした東日本大震災被災地での持続可能なまちづくりに向けて問題提起を行った。示唆に富む講演となり、出席者は終始熱心な表情で聴講していた。
 講演会に合わせ、25日にはエネシフ気仙主催の木質エネルギー見学会「よし!まず山へ行こう」が住田町や同市で開催された。身近にある地域資源や産業について理解を深めようと企画し、市民ら約10人が参加した。
 一行は下有住の吉田樹苗を訪問。造林用のカラマツやスギに加え、海岸林用でマツクイムシの抵抗性があるマツ、花粉が少ないスギの育苗などを進める事業展開に理解を深めた。木造庁舎として全国的に注目を集める町役場では、構造や内部に設備されているペレットボイラーなどを見学した。
 横田町の畠山林業では、伐採作業者の省力化につながる高性能林業機械を見学。矢作町の村上製材所では丸太を住宅用の柱や化粧材などに加工する業務に加え、現状における林業や製材業の課題などを把握した。 
 「エネシフ」は平成25年3月に設立し、気仙の林業、建設分野などの若手らで組織。気仙内外の有識者や先進地とも連携を深めながら、住民にとって分かりやすい安心なエネルギー利用拡大などを目指し、これまで研修を重ねてきた。
 気仙ではこうした取り組みにとどまらず、行政や民間企業でもそれぞれで再生可能エネルギー推進の動きがある一方、住民レベルにまで巻き込んだ形での取り組みには至っていない。新たなまちづくりや復興事業とも連動し、次世代を見据えた形で住民や地域団体主導のエネルギーシフトに向けた動きが本格化するかが今後注目される。