63年ぶり醸造復活、神田葡萄園のワイン/陸前高田

▲ ワイン専用のブドウ畑の前で商品を手にする熊谷社長=米崎町

 東日本大震災で被災した陸前高田市米崎町の㈲神田葡萄園(熊谷晃弘社長)は、独自のワイン醸造を63年ぶりに再開し、今月から新たに地元産のリンゴワインの販売も始めた。広田湾の潮風を浴びて育つ三陸ならではのブドウの味の魅力を発信しようと復活させたワイン造り。「三陸の地酒」としての定着を目指して挑戦を続ける。

 

目指すは「三陸の地酒」、今月販売開始の商品も

 

 明治38年に創業し、長い歴史を持つ同社。創業時から葡萄酒造りにも東北でいち早く取りかかったが、戦争など時代背景の影響や地域性に合わず、昭和28年に酒の製造を廃止。飲料製造・販売をメーンにシフトした。
 平成19年からは山形県のワイナリーに醸造作業を委託してワインの販売を再開。父から継ぎ、6代目となった熊谷社長(32)は、原点回帰とこれまでの経営のあり方を見つめ直し、再びワイン造りにも挑戦しようと計画を立て、専用の苗木を仕入れるなど準備を進めていた矢先に震災に遭った。
 工場や町内にあるブドウ畑が被災し、事業も白紙に戻ったが、復旧とともにワイン造りへの思いが再燃。約2000万円をかけて醸造用の設備を用意し、昨年10月、申請から半年がかりで製造免許が下り始動した。
 秋に収穫したブドウを使って昨年11月から仕込みに取り組み、今年に入って出荷を開始。生まれ変わった商品の銘柄は「THE RIAS WINE(ザ リアス ワイン)」。潮風がブドウにミネラルを与え、冷涼な生育期を経てさわやかな酸味を残す三陸沿岸の風土を伝えようという思いを込めた。
 現在、手がけるワインは6種類。赤、白、ロゼに今月から地元産リンゴを使った商品も加わった。1000本ずつ製造した甘口と辛口のロゼは全国から注文が殺到し、すでに完売した。
 今年約5000本という出荷数は、今後数年の間に年間1万~1万5000本まで拡大させたい考え。
 「ワインを陸前高田の海の幸のおいしさを引き出す存在とさせたい。食の豊かさを全国にもアピールしたい」と目標を掲げる熊谷社長。「震災や免許取得に時間がかかるなど壁もあったが、ようやくここまで来た。ただワイン醸造はまだ始まったばかり。継続して消費者に届けていくことが大事だ」と気を引き締める。