フランスの美術展で入選、熊谷さんの「延年の舞」
平成28年6月18日付 3面

前衛的な現代絵画作家にとっての登竜門とされるフランスの美術展覧会「サロン・ドトーヌ」で、陸前高田市芸術文化協会会長や気仙地域のアートアカデミー「彩光会」会長などを務める熊谷睦男さん(82)=高田町=の作品「延年の舞・老女〈鎮魂16〉」(油彩・F40号)が入選した。入選倍率は5~6倍ともいわれる同美術展覧会において、4年連続の入選という快挙を達成した熊谷さん。その作品は、パリの著名な評論家からも「わたしが最も作品を待ち望む作家の一人」「装飾をそぎ落としてより雄弁さを増し、素晴らしい深まりをみせる」と高く評価されている。
4年連続の快挙達成、パリの評論家も高く評価
熊谷さんは昭和41年から国内の画壇に所属して活動していたが、仕事が忙しくなったなどの理由で平成元年に退会。再び絵筆を握ったのは退職した十数年後のことで、〝古希からの再挑戦〟と70歳で初めて国際公募展に作品を出品した。
同19年からは、フランス芸術家協会が主催する美術展でも入選出展するようになった。この美術展は通称「ル・サロン」と呼ばれ、約340年という世界最古の歴史と伝統を持つ国際公募展。これまでに8回入選し、このうち1回は銅賞にも輝いている。こうした実績から、23年1月には同協会の永久会員として認定された。
4年連続の入選を果たしたサロン・ドトーヌは、伝統があるゆえに保守的なル・サロンに対抗して発足した経緯を持つ。そのため、抽象的な作品がほとんどで、具象的な絵画を得意とする熊谷さんは、「自分の作風とは違う」と自分から出品することを控えていた。
そんな中、熊谷さんが継続して参加していた「日本・フランス現代美術世界展」を、24年からサロン・ドトーヌ協会が特別協賛することに。作品を寸評した同協会のノエル・コエ会長(当時)から「サロン・ドトーヌにも参加しては」と打診を受け、作品を出品するようになったという。
入選した作品は、平泉・毛越寺に伝承される「延年の舞」をモチーフに、震災以降手がけている〝鎮魂〟シリーズの一つ。背景は深い青色で、白い衣装の踊り手をひときわ浮かび上がらせている。その上部には、金色の仏の姿が繊細な筆遣いで描かれ、見る者の目を引く。
〝鎮魂〟シリーズは、日本とフランスの美術関係者により「フランス画壇にて活躍する邦人プロ作家の育成」を目指して設立され、今年で第30回の節目を迎える「パリ国際サロン」にも招待出品されている。
昨年の同サロン・ミニ個展部門では、パリの著名な美術評論家であるロジェ・ブイヨ氏が、「わたしは熊谷睦男という作家とその作品に、心からの称賛を送りたい」と絶賛。「彼の絵画の最も優れた点、それは見る人にシャーマニズムの永続性を感知させると同時に、仏教の本質、さらには神道の本質を感じさせてくれるということ」「あらゆる宗教は、一人一人の魂に語りかけ、人類を一つにするという純然たる使命を持つということを証明している」と熊谷さんの作品の持つ魅力を述べている。
「若いころはサロン・ドトーヌやル・サロンに出品するなんて夢にも思わなかった」と熊谷さん。「高い雲の上の存在」だという両美術展に〝鎮魂〟シリーズが認められ、かつての〝夢〟が〝現実〟になった。「その気になってやっていれば、夢は努力次第で実現する」と語る姿は、後進の芸術家たちにとっての希望となる。