御神木の〝威厳〟残る、今泉天満宮・天神大杉の伐採/気仙町(別写真あり)

▲ 25㍍ほど伐採されながら、堂々とした姿で残された天神大杉=気仙町・今泉天満宮

 陸前高田市気仙町の今泉地区を800年以上にわたり見守ってきた「天神大杉」の伐採作業が、23日に行われた。東日本大震災で被災してから5年余りが経過し、倒木の危険性が高まったことによるもの。当初の予定より大幅に幹を残す形となり、地域住民からは「完全に切り倒すことにならなくてよかった」と安堵の声も。関係者らは「津波を伝える大切な〝証人〟」「まだしばらくの間、ここでお役目を果たしてもらえれば」と神木の力強いたたずまいを見上げる。

 

津波襲来のあと示す形に

 

 天神大杉は高さ30㍍以上、幹回りおよそ7㍍の巨木。今泉天満宮(荒木眞幸宮司)の御神木として住民の畏敬を一身に集め、心のよりどころとなってきた。5年前の津波による塩害を受けながらも堂々とした立ち姿を保っていたが、青々としていた葉は次第に落ち、枝や幹も少しずつ朽ちていった。
 このため今年1月には氏子らで大杉の今後を協議。誰もがなにがしかの思い出を持つ御神本を切ることに抵抗感を示しながらも、安全性確保の点から「伐採やむなし」の方向で一致した。
 今回の作業は同天満宮の総代長で、80歳を超える「木挽き」の佐藤直志さんが中心となって実施。魂抜きと安全祈願祭のあと、地元の村上製材所と福岡県の不二納事がサポートにあたり、先端部から数㍍おきに切っていった。
 樹木の直径はおよそ2㍍。分割しても1片あたりは5~6・5㌧、最大で10㌧あまりと非常に重い。朝から降り続く雨もあって作業が難航する中、佐藤さんらは木の状態を見ながら丁寧にチェーンソーを入れていったが、大勢のプロが全力を傾けても、日没のころには「これ以上は切り進められない」という状態に。
 神社関係者と氏子らは緊急協議の末、「危険な高さではなくなった」と判断。完全に切り倒すのではなく、根本から4・5㍍ほどを残し保存することになった。
 同神社の社家である榊原家の榊原裕一禰宜(32)は「子どものころから当たり前のようにそばにあった木。もっと低くなる予定が、ここまで残ったことにどこかほっとしている。人事を尽くして作業にあたっていただいた結果がこの高さなら、天命というか、〝今泉の神様のおぼしめし〟のような気がする」とほほ笑んだ。
 また、偶然にもこの高さが3月11日に襲来した津波の到達高であったことから、荒木宮司(72)と榊原禰宜はともに「『ここまで津波が来たんだよ』と伝える役割を、この木が果たしてくれるということではないか」と語った。
 天神大杉の根本には、すでに数本の若木が成長を見せている。荒木宮司は「専門家との相談になるが、大杉の空洞部分に土を入れて土壌をつくり、このうちの1本をそこに移植できないかという気持ちもある」と、なんらかの形で神木を守りたい考え。
 切り倒された部分についても、一部を板にして在りし日の天神大杉を描いてもらう計画があるほか、全壊した同天満宮社殿再建のため、お札などにして寄進者へ渡せればとしている。