歴史的景観への関心喚起、旧菅野家住宅及び土蔵群を国登録有形文化財に申請/住田町
平成28年6月30日付 1面

住田町の世田米商店街に位置し、住民交流拠点施設「まち家 世田米駅」として整備が進められてきた旧菅野家住宅及び土蔵群。町教委は、文化庁に国登録有形文化財の申請を行うなど、歴史的景観価値のさらなる発信に向けた動きを進めている。同施設としての整備は一段落を迎え、レストランなどには広く来客があるほか、住民活動や子ども向けのイベントも見られる。町側では、古き良き建造物が並ぶ地域全体の関心喚起といった波及効果を見据える。
文化財登録制度は、近年の国土開発や都市計画の進展、生活様式の変化など、社会的評価を受ける間もなく消滅の危機にさらされている多種多様な文化財建造物を継承しようと、平成8年から始まった。全国ではすでに1万件余りが登録されている。
登録により、建物の固定資産税の5割が免除されるといった優遇措置がある。町教委は先月末、文化庁に対して申請。町で登録を受けたケースはまだなく、今後は上有住にある民俗資料館の申請に向けた動きも進めるとしている。
旧菅野家の家屋や蔵は、明治時代から昭和30年代にかけて建設。家屋は仙台藩北部地域における宿駅の特徴などが反映され「妻入り町家」の一つとされる。表2階の縁側付客座敷のほか、「土間」「みせ」「帳場」「おかみ」「ざしき」と続く1階の構造や意匠など、すぐれた技巧が凝らされた空間が広がる。
まち家世田米駅の整備を巡っては、23年度に町が策定した中心地域活性化構想、26年度に策定した基本計画により、施設・設備整備の方向性を具体化。地域の歴史、伝統的な魅力を生かした活用を目指してきた。
構造や部材をできる限り当時のまま残す形での改修は、昨年度から本格化。レストランやコミュニティカフェ、交流スペース、まちや体験スペース、蔵ギャラリーなどを設置し、世田米地区公民館としての機能も有する。24年度からの土地購入を含め、これまでの総事業費は本年度までの見込みで2億6900万円となっている。
4月29日に一部が開業。5月の大型連休までに約1200人が利用した。工事を経て営業を再開した16日から月末までには、レストランは638人、表通りに面したカフェは217人が訪れた。
整備は5月31日に終了。6月6日に施工業者から施設引き渡しを受けた。今月に入り、世田米高齢者教室による90人超の会食や、仮設住宅住民が参加しての料理交流、屋外スペースを生かした子ども向けの遊びイベントなど、利用の多様化も進んでいる。運営は主に、指定管理団体の一般社団法人SUМICAが担っている。
世田米地区は江戸時代、種山峠を越えて気仙郡に入り、世田米宿から白石峠を越えて盛宿に通じる盛街道の宿場町として栄えた。内陸と沿岸を結ぶ重要な役割を果たしてきた。
建設当時の姿をとどめる町家は十数棟あり、周辺には古き良きたたずまいがある蔵も多い。登録によって町側では、世田米商店街周辺に建ち並ぶ歴史的な建造物に対する関心向上や、景観を生かした交流人口拡大などを見据える。
商店街から昭和橋を挟んだ気仙川の対岸には、一昨年に完成した木造の役場庁舎が構える。今後は同じく木造の消防分署が整備されるほか、図書館が入る生活改善センターの改築計画もある。子ども向け遊具が充実しているふれあい広場を含め、商店街周辺の回遊につながる振興策のあり方も注目される。