2016参院選/岩手選挙区は野党統一候補に軍配、共闘で「非自民」議席維持
平成28年7月13日付 1面

第24回参議院議員通常選挙(改選121)は、連立与党の自民、公明が70議席を獲得する圧勝となった。事実上の与野党対決が展開された岩手選挙区(改選1)では、民進、共産、社民、生活の4党が統一候補として擁立した無所属の木戸口英司氏(52)が、自民が公認し公明が推薦した田中真一氏(49)に7万5000票余の差で勝利。全国的に与党が強さを見せた中で、非自民の議席を守り切った。選挙戦を振り返る。(参院選取材班)
■全 国
今選挙は選挙区(改選73)に225人、比例代表(同48)に164人の計389人が立候補し、改選数に対する競争率は選挙区、比例合わせて約3・2倍となった。18歳以上への選挙権年齢引き下げが適用された初の国政選挙で、投票率は54・70%。平成25年の前回選を2・09ポイント上回った。
主要政党の結果をみると、自民が選挙区、比例代表合わせて56議席、公明が14議席を獲得。選挙区で32ある改選数1の「1人区」では、21選挙区で勝った。自民は今選挙で評価が問われた経済政策「アベノミクス」の一層の推進に意欲を見せ、憲法改正に前向きな勢力が国会発議に必要な参院の3分の2(162議席)を上回ったことから、この動きも加速化していくものとみられる。
一方、野党の獲得議席を見ると、民進は32議席、おおさか維新7議席、共産6議席、社民と生活が各1議席、無所属が4議席。選挙区の1人区で、前回は野党側の勝利が2選挙区だったが、今回は11選挙区で議席を得ている。
■県 内
岩手選挙区には新人3氏が立候補。全国の1人区と同じく、自民・公明の与党に対し、野党が候補を一本化して臨む与野党対決を軸とした選挙戦が展開された。投票率は57・28%で前回を0・25ポイント上回った。
開票の結果、木戸口氏が32万8555票を得て初当選。県内33市町村中、気仙2市1町を含めた16市町村でトップ得票。秘書としても師事した小沢一郎衆議院議員の地盤の奥州、地元の花巻、最大票田の盛岡の各市ではリードを広げ、田中氏に7万5788票の差をつけた。
生活の現職・主浜了氏の勇退表明後、統一候補としての正式決定は5月と遅れたものの、各党の支持層を手堅くまとめ、無党派層にも浸透。昨秋の知事選の流れをくむ野党共闘で、達増拓也知事の積極支援も受けて「岩手のチカラ総結集」を訴えてきた木戸口氏は、「政治に対する危機感、政治を変えてほしいという期待感、その思いが結集し、まったく一体となった戦いができた」と語った。
一方の田中氏は、自民、公明の党組織を集票の核に、前回争った無所属の平野達男参議院議員も支援に回り、震災復興などの取り組みにおける与党の強みを訴えた。前回選で自身が獲得した16万1499票を9万票余上回る25万2767票を得た。17市町村でトップだったものの、大票田での差が響いた。
与野党ではない第3の選択を訴えた幸福実現党の石川幹子氏(51)は、3万4593票にとどまった。
開票時、最大票田の盛岡市で投票用紙の枚数と投票者数が合わないなどのトラブルがあり、選挙区の最終確定は11日午前2時36分と遅れた。
■気仙地区
木戸口、田中両氏の気仙での得票は、大船渡市で木戸口氏9485票―田中氏8378票、陸前高田市で木戸口氏5649票―田中氏4233票、住田町で木戸口氏1490票―田中氏1461票。合計は木戸口氏1万6624票―田中氏1万4072票と競った。石川氏は足掛かりがなく2154票にとどまった。
現新6氏が立候補した前回は当時の民主から無所属に転じた平野氏が、復興大臣としての実績も背景に幅広い支持を集め、1万4138票でトップ。今回共闘した野党4党候補の合計は1万2461票で、田中氏は7996票。「平野票」は今回、同氏が支援に回った田中氏だけでなく、木戸口氏にも多く流れたことがうかがえる。
木戸口氏陣営は推薦各党または主浜氏を支持してきた市議、町議らが中心となって活動。「何から何までがっちり、というわけではない」(関係者)という緩い連携にとどまり、前哨戦から党ごとの動きが目立った。
対する田中氏陣営は全国的な与党への追い風をとらえ、比例での公明との連動を明確にし、「一票でも上回りたい」(関係者)と躍起となった。
中盤に入って住田や大船渡で田中氏優勢の観測がささやかれ、木戸口氏陣営は最終盤における気仙での街頭演説で、民進県連代表の黄川田徹衆議院議員と主浜氏をはじめ、共産、社民、連合岩手の代表者と木戸口氏が並ぶ「オールスター体制」を見せ、結束をアピールした。
これらの結果、木戸口氏は各党それぞれの支持層を固め、無党派層にも浸透して田中氏をリード。木戸口氏は4党推薦の無所属だが生活に近く、国会にどのような立場から臨むか、有権者は注目する。また、従前から非自民が強勢を誇ってきた中で、今回は自民が「あと一歩」と言える状況まで迫った。これが気仙の政界地図を変える潮目となり得たかは、今後の選挙が占うこととなりそうだ。
今回の選挙戦、東日本大震災復興をめぐって、木戸口氏が被災者生活再建支援金の引き上げ、田中氏は復興完遂を訴えた。ただ、力の込め方は現政権や共闘など、互いへの批判が上回った感はぬぐえず、気仙の有権者からは「どこかよその選挙のようだ」といった冷めた反応がちらほら。それを反映するかのように、投票率は県全体では微増となったのに反し、大船渡市は59・50%(前回選比5・44ポイント減)、陸前高田市は61・94%(同2・27ポイント減)、住田町は63・31%(同2・93ポイント減)と気仙2市1町すべてで下がった。