視点/三木、ランバー両協同組合問題の現在地・住田町㊤

▲ 木工団地内に事業所を構え、経営再建を急ぐ三木=世田米

〝どん底〟からの経営改革
「借りた金は返す」道筋は

 

 

 住田町世田米の木工加工団地内に構える三陸木材高次加工協同組合(中川信夫代表理事、三木)と、協同組合さんりくランバー(同代表理事、ランバー)。いずれも町の「森林・林業日本一の町づくり」を担う事業体だが、厳しい経営状況や町への融資償還が計画通り進まないなど、長らく町政課題としてあり続ける。両事業体は今、どのような状況にあるのか。そして、町や議会には何が求められているのか。本年度明らかになった動きや、議会論戦などから探りたい。

 

 木工団地は、気仙川と国道340号に挟まれた田谷地内に形成。川寄りに、気仙と釜石地域の林業関係8団体で平成14年に設立されたランバーの工場があり、丸太を集成材用ひき板(ラミナ)に製材、乾燥して三木などに供給している。
 同じ事業体と言えるほどの近さに、加工場などを構える三木。10年に林業事業所など17団体で設立され、防腐加工などを施した構造用集成材を製造している。
 さらにその隣接地に構えるのが、けせんプレカット協同組合。建築事業者の各工法に対応した柱やパネルなどを製造。宮城や東京など県外からの受注が多い。
 復興需要にも乗り、27年度に前年度超えの実績を残したプレカット。一方、三木とランバーは26、27年度と連続で赤字決算となった。
 昨年春、厳しい経営状況とともに、新たな町政課題が浮上する。19年、経営危機に伴い、町から合わせて約7億9000万円の公金融資を受けた。26年度から年額約3100万円を償還する計画だったが、同年度中の支払いはなかった。

 

 

 貸した金が町に返済されるには、どうすればいいのか。昨年から注目され続けている町政課題のポイントは、この言葉に尽きる。
 再建をあきらめれば利益は何も生まれず、雇用や経済、林業生産など町全体に大きなダメージを与える。また、現時点では融資償還が経営を圧迫しているという状況でもなく、仮に償還を免除しても直接的な再建支援とはならず、見通しの甘い血税投入だったとして町の信用低下だけを招く。
 保証人からの回収や物件差し押さえも、現実的ではない。両組合は金融機関には約款通りの借り入れ金返済を続けてきた。自らで動ける力が残るうちに、利益を出せる組織に生まれ変わる。それが現状打破の唯一の方法であり、最後のタイミングと言えた。
 両組合は昨年10月、支配人としてプレカット専務理事の泉田十太郎氏を迎え、経営改革に着手。従業員が主体的に改善に取り組むよう促した中、利益確保に向けどう変わったのか。
 三木における今年4月の売上高は、9369万円。これは、前年同月を約3000万円下回る。5月は9869万円で約540万円、6月は1億1277万円で約450万円それぞれ少なく、売り上げや生産量の伸びは見られない。
 ただ、在籍人員一人あたりの生産性は向上。従業員は昨春は57人いたが、今年5、6月は41人体制で操業した。再び直面した経営危機、利益確保に向けた改革と激動期を迎えた中で、離れた従業員数は小規模と言えるものではなかった。
 従来の夜間も含めた複数シフトから、昼間だけの1シフトと残業対応とし、稼働時間中の生産性向上を重視。無理のない受注体制を優先させ、不良品の発生抑制などにつなげた。
 今年3月以降、改善効果が出始める。三木では、少人数による生産体制が定着し、人件費が低下。製造経費では、製品輸送費や電気代が大幅に減少した。防腐薬剤の仕入れペースが下がるなど、現場でのコスト管理が経営的にも良い循環を生み出すようになった。
 本年度に入り、安定運営に向けた毎月の売上高目標を三木は1億2000万円、ランバーは2000万円と設定。前年度並みの売上実績の中で、利益を出す体制づくりを進める。
 三木は4、5月と単月赤字が続いたが、6月に初めて黒字となった。ただ、各月ともまだ売上高は目標に届かず、7月は1億1450万円。ランバーからのラミナ入荷が思うようにできなかったのが要因の一つで、今後は他業者からの仕入れも検討するなどして売り上げ確保につなげる姿勢を掲げる。

 

 

 経営改革が進む中、昨年12月から、融資金の返還が始まった。ただ、額は毎月50万円程度で、1年続けても600万円。満額の3100万円にはほど遠い。
 これまで廃材としていた端材をプレカットに売り、その一部を返済に回す。残りは従業員の賞与とし、経営改革に向けた士気向上を図る。今後25年間にわたり、年間3100万円をどう確保する見通しなのか。
 両事業体とも、端材売却に加え、本業からの安定的な利益も返済に充てる考え。さらに、ランバーは金融機関に対して年間1500万円程度の支払いがあるが、来年には完済を迎える。三木でも数年内に多くの返済が終わり、設備投資とのバランスを見ながら償還に回せるとの見方を示す。
 だが、経営改革着手から1年を迎えるまで資金繰りの見通しは厳しく、予断を許さない状況が続く。黒字化や計画通りの償還が達成できてもゴールではなく、継続的に払い続けるスタートラインでしかない。
 泉田氏は「どん底の状況を自分たちの力で乗り越えれば、新たなステージが見えてくる。それが成長につながる。マクロ経済の動向に左右されないしっかりとした体制をつくらなければ」と語る。