東北の太平洋側、観測史上初の台風上陸/猛烈な風雨 気仙を襲う(動画、別写真あり)
平成28年8月31日付 1面
大型で強い台風10号は30日午後、暴風域を伴って東北地方に近づき、同6時ごろ大船渡市付近に上陸した。東北の太平洋側への台風上陸は、気象庁が統計を取り始めた昭和26年以来初めて。気仙も猛烈な雨と風に襲われ、2市1町は、いずれも午前中のうち全域に避難を呼びかけるなどし、住民が警戒を強めた。これより先にも立て続けに台風が接近した影響から、地盤の緩みなどによる被害の発生も懸念され、厳重な警戒が必要となっている。
各地で警戒、被害も懸念
気象庁によると、台風10号は30日午後5時現在、中心の気圧は965ヘクトパスカル、最大風速は35㍍、最大瞬間風速は50㍍で、中心の北東側220㌔以内と南西側110㌔以内は風速25㍍以上の暴風域となっており、勢力を保ったまま同6時ごろ大船渡市付近に上陸した。
この影響で、気仙でも朝から雨や風が強まり、午後からは大荒れとなった。盛岡地方気象台によると同5時20分現在、1時間当たりの最大降水量は大船渡で31・0㍉、陸前高田で26・5㍉、住田で26・0㍉。最大瞬間風速は大船渡で25・3㍍、住田で23・6㍍、陸前高田で20・1㍍を観測し、このうち住田と陸前高田は8月の観測史上最大を記録するなどした。大船渡港では満潮の時刻と重なった午後3時前に潮位約1㍍20㌢を超え、観測史上最高を記録した。
大船渡港では満潮の時刻と重なった午後3時前に潮位約1㍍20㌢を超え、観測史上最高を記録した。
台風は31日には日本海に進む見込み。気象庁や自治体では土砂災害、浸水、洪水、暴風、うねりを伴った高波、高潮に厳重に警戒するとともに、落雷や竜巻などの激しい突風、ひょうに注意し、建物内に移動するなど安全確保を呼びかけている。
また、例年この時期は海水温の上昇などの影響で潮位が高くなり、沿岸地域では浸水や冠水が発生しやすい状態となっている。加えて大潮とも重なっており、特に海沿いや低地では注意が必要だ。
101人が身を寄せる/大船渡市
大船渡市は30日午前10時、市内11地区に避難所を開設した。
市によると同日午後4時30分現在、指定避難所9カ所や地域公民館などに101人が避難。このうち、大船渡町の大船渡地区公民館には32人が身を寄せた。熊谷ハルさん(87)は「一人暮らしで心配なので、雨がひどくならないうちにと避難した。早く自宅に戻れればいいが」と不安そうな表情を見せた。
同館には、宮古水産高校の実習船・りあす丸に乗船していた同校専攻科の生徒や教諭、乗組員13人も避難。同校の福士智哉実習教諭(27)は「生徒たちの安全確保が第一。船内にいるよりは安心できる」と話していた。
午後4時現在、大船渡町の地ノ森と欠ノ下向、盛町の木町(盛川沿い)、田中島、下舘下の5カ所が冠水し、通行止めなどの規制がとられた。
猪川、盛の両小学校、猪川保育園、赤崎町の市道蛸ノ浦合足線内では倒木被害があり、同線は通行止めに。県道唐丹日頃市線も倒木の恐れがあるとして、全面通行止めとなった。
末崎町字峰岸地内の主要地方道大船渡広田陸前高田線では、高潮被害の恐れがあるとして午後2時過ぎに通行止めとなった。
市内の小中学校と大船渡、大船渡東の各高校、気仙光陵支援学校はいずれも休校。店舗や事業所などでは、臨時休業や閉店時間を繰り上げたところも。
市内では各種復興事業が行われているが、同日は漁港整備などの一部現場で終日休業となり、そのほかでは天候状況をみながら作業。土のう積みなどの台風対策を講じた現場もあった。市では引き続き、警戒と被害状況などの調査、確認を進めている。
被害に備えて避難、対応も/陸前高田市
陸前高田市では30日午後5時現在で、市内17カ所の避難所に136世帯211人が避難。
高田町の市コミュニティホールには、「準備情報を聞いてすぐに来た」という人をはじめ、午前中から次々と住民が身の回り品を抱えて訪れた。気仙町長部で被災し、竹駒町に自宅を建てたという吉田トクヘさん(84)は、「家が坂の下にあり、水が斜面を下ってくると怖いから」といい、90代の義姉と2人で避難。高田町の鈴木八代子さん(77)も「タクシーでここまで来た。雨がひどくなってから移動しようとすれば、運転手さんや消防団、市の人たちにも迷惑をかけるので、早めに動かねばと思った」と話していた。
竹駒町の仮設商業集積地では事前に休みを決めていた商店が多く、各店舗の入り口には臨時休業の張り紙が。通常通り営業したドラッグストアでも、前日のうちにドアの前をシートで覆い、土のうを積んでおくといった対応を取った。
同町にある未来商店街のすし店では、風雨が激しくなる前に植木を室内へ運び入れたり、風で飛ばされる可能性があるポリカーボネート製の屋根を取り外すといった作業に追われた。同商店街は以前も大雨で冠水するなどしており、店主は「今回も水があふれるかもしれない」と表情を曇らせていた。
午後4時時点で判明している被害としては、高田町の中和野で長屋の屋根が飛ぶなどしたほか、同町大石の交差点が冠水により通行止めに。広田町長洞と矢作小で倒木が確認され、矢作町の県道世田米矢作線では土砂崩れが起きるなど、通行上の支障が各地で発生している。市内小中学校と高田高校は休校となった。
住民が不安な時間過ごす/住田町
住田町では午前10時には町内全域に避難準備情報を発令。午後5時現在で地区公民館や自治公民館施設など11カ所に計37世帯71人が避難。役場には午前から80代以上の住民が続々と姿を見せ、昼からは親子連れの姿も。避難者は窓越しに外の様子を見つめ、不安な時間を過ごした。
世田米字川口の高木ヒサ子さん(81)は「今まで何回も家に水が入っている。一人でテレビを見ていると怖くて、初めて避難した。人がいるから安心」と話していた。町内の全小中学校では、午後2時までに下校措置が取られた。
世田米矢作線、釜石住田線、遠野住田線の各県道、国道283号仙人峠道路では、雨足が強まり始めた昼すぎから通行止めに。世田米大渡地内の斜面では、土砂崩れが発生。各地の道路沿いや民家近くで倒木の通報があり、関係機関が対応に追われた。
台風7号が接近した今月17日以降、各河川は水位が高い状態。気仙川沿いの木工団地内のさんりくランバー、三陸木材高次加工、けせんプレカットの各事業体は午後から操業を見合わせた。
運休相次ぎ一部で停電も
三陸鉄道南リアス線は、午前10時55分から上下線ともに運転を見合わせた。JR大船渡線BRTも正午以降の運転を見合わせ、陸前高田市で運行されているデマンド交通(予約型乗合タクシー)も運休した。
気仙地区内の県交通路線バスは、陸前高田住田線や小黒山経由生出線、中井線、細浦経由高田線、それ以外の大船渡市内線を正午以降運休。高速バスは県交通の大船渡仙台線と大船渡盛岡線、一関大船渡線、宮城交通の大船渡線の計10便が運休となった。
東北電力岩手支店によると、大船渡市末崎町碁石地区で504戸が停電したが、午後4時ごろ復旧した。