「異例」の台風つめ跡残す、気仙各地で被害(別写真あり)

▲ 床上浸水被害を受けた五葉地区内の住宅=住田町上有住

 30日夕に暴風域を伴って大船渡市付近に上陸した台風10号の影響で、気仙は猛烈な風雨に襲われ、各地で河川の増水や道路の冠水などが相次ぎ、多くの住民が避難所で不安な一夜を過ごした。31日午後5時までに、人的被害は確認されていないものの建物浸水が複数報告されるなど、昭和26年の気象庁統計開始後初の東北太平洋側上陸となった「異例」の台風の直撃は、大きなつめ跡を残した。

 

河川増水で家屋浸水も

 

 台風10号は先月19日に日本の南海上で発生。いったん沖縄の南に近づいたあと、Uターンするように進路を変え、関東・東北方面へと北上し、30日午後6時ごろ、大船渡市付近に上陸した。
 この影響で気仙地方も大荒れの天気になり、同日は住田で100・5㍉、大船渡で95・0㍉、陸前高田で72・0㍉の日降水量を観測。このうち陸前高田は8月として歴代2位、住田は7位の値となった。
 雨とともに風も強まり、日最大瞬間風速は大船渡で25・3㍍、住田で23・6㍍、陸前高田で20・1㍍。陸前高田と住田は同月として観測史上1位、大船渡は5位の記録を更新した。
 気象庁は29日午後から30日午前にかけて、気仙3市町に大雨、洪水、暴風、気仙両市に波浪、高潮の各警報を発表。これらの警報は31日の明け方までに解除、もしくは注意報に順次切り替えられた。
 台風はこのあと、1時間におよそ75㌔の速さで北西へ進み、同日午前0時に日本海で温帯低気圧に変わった。引き続き、強風、大雨、大しけのおそれがあることから、気象庁では今後も警戒するよう呼びかけている。

 

冠水した県道沿いの事務所。従業員たちが浸水の後片付けに追われた=大船渡市大船渡町

冠水した県道沿いの事務所。従業員たちが浸水の後片付けに追われた=大船渡市大船渡町

大船渡市

 

 市内10地区の避難所や公民館へ、ピークの30日午後4時ごろで101人が避難。同7時46分に避難勧告を解除し避難所を閉鎖したが、末崎、立根、大船渡の避難所では31日朝まで受け入れた。
 盛川は30日午後6時時点、権現堂観測所で、氾濫危険水位の1・60㍍を超える1・82㍍まで達した。河川敷まで水が上がったが、大きな被害は確認されていない。
 冠水(4カ所)、高潮(1カ所)、倒木(1カ所)による被害を受けた道路は復旧済み。県道唐丹日頃市線は、倒木の恐れがあるとして現在も通行止めが続く。
 大船渡町地ノ森の県道丸森権現堂線は先の台風9号に続いて冠水。道路沿いの㈱ジューテック大船渡出張所は床上浸水し、31日に従業員たちが後片付けに追われた。渡辺明所長(49)は「入り口に土のうを積んだが、壁の形跡からして20㌢くらい浸水したようだ」と話していた。

土砂や流木などが高潮で道路まで運ばれた=大船渡市末崎町

土砂や流木などが高潮で道路まで運ばれた=大船渡市末崎町

 高潮の影響で30日午後2時過ぎから通行止めとなっていた末崎町字峰岸地内の主要地方道大船渡広田陸前高田線では、船河原海岸から打ち上げられたとみられる無数の丸石や砂、流木、海藻などが路面を覆い、31日朝から建設業者が撤去作業にあたった。

 また、防波堤は末崎町細浦、三陸町綾里野々前、吉浜扇洞の3カ所で被害を確認。水産、農業被害は調査中。
 東北電力岩手支店によると、30日夜に末崎町碁石の504戸、三陸町綾里と同吉浜の409戸が停電したが、同日午後8時までに復旧している。

 

陸前高田市

 

 陸前高田市はピークで142世帯224人が避難所に身を寄せた。31日午前5時30分、市内全域に発表していた避難勧告を解除し、すべて閉鎖した。
 道路は、国道45号の旧道の駅高田松原「タピック45」北付近200㍍の区間と、高田町─米崎町の市道停車場線で冠水による通行止めとなったが、31日朝にはいずれも解除。矢作町生出の県道246号生出―大股は土砂崩れによる通行止めが続く。
 矢作や広田、高田各町など複数カ所で倒木が確認され、高田町西和野の仮設住宅では屋根への被害も。同町中和野では倉庫として使われていた3階建て長屋のトタン屋根が飛び、近くの電線に屋根がかかったことから、31日午後に電線の復旧作業が行われた。
 気仙川の舘観測点では30日午後6時の時点で氾濫危険水位の3・60㍍を超える3・83㍍に至り、同8時には4・32㍍を記録。31日は2㍍台に下がったものの、流れが急な状態が続いた。農林・水産関連の被害は調査中。

猛烈な風で特産のリンゴが落果=陸前高田市米崎町

猛烈な風で特産のリンゴが落果=陸前高田市米崎町

 収穫期が近づくリンゴの落果もあり、米崎町のリンゴ生産者・熊谷真喜子さん(63)は「丹精込めて育ててきた。今年はナシがカラスに食べられ、台風も続いてさんざんな目に遭った。天災はどうしようもないが気がめいる」と肩を落とした。
 また、竹駒町の廻館橋付近の気仙川河川敷で、被害を受けた畑と作業小屋の片付けをしていた地元の男性(81)は、「しょうがない。この程度で済んだという気持ち」と話していた。

 

住田町

 

 住田町では床上浸水2件、床下浸水3件を確認。上有住五葉地区の中沢地域では、沢に架かる橋に流木などが堆積したとみられる影響で水があふれ、周辺の住宅に甚大な被害をもたらした。31日は早朝から地区住民らが駆け付け、後片付けを行った。
 紺野サダさん(88)宅には、地面から1㍍ほどの高さで泥が付着し、押し寄せた濁流の恐ろしさを物語る。大雨が続いていた30日午後4時ごろ、流れてきた木や泥が家に当たる音に気付き、近所の住民に連絡。親類の家に避難して一夜を明かした。
 避難時は家の中に水は入っていなかったが、翌朝戻ってみると台所や寝室の床は泥が残り、座敷の畳も持ち上がったような跡があった。紺野さんは「水が入ったのは初めて。真っ黒い水が流れてきて自分ではどうすることもできず、ただ祈るだけだった」と涙ぐんだ。
 気仙川に架かる世田米の昭和橋は、30日午後4時から急激に水位が上昇。県の観測によると、同6時に3・4㍍と氾濫危険水位(2・90㍍)を上回り、同7時に3・10㍍に達したあとは、徐々に低下していった。
 同5時50分には昭和橋周辺の川向、火石地区に避難指示。役場には50人近い住民が訪れ、夕食としておにぎりなどが提供された。
 同じく氾濫危険水位を超えた大股川流域の金成、下大股地区にも避難指示を発令。ピーク時には町内14カ所に86世帯、177人が避難したが、10時までに各地区で避難勧告が解除された。
 町内の川沿いでは浸水した農地が見られるほか、強風で破損したと思われるビニールハウスも。道路でも路面破損が散見され、今後も住民生活への影響が懸念される。