木造仮設住宅の備蓄を、東日本大震災の経験ふまえ提案/住田町

▲ 木造仮設住宅の備蓄化に関する提案も行われた「木のまちサミット」=山梨県早川町、住田町提供

 東日本大震災直後に独自で木造仮設住宅を建設した住田町は、発災から5年半の経験や実績をふまえ、全国の各自治体などに対して木造仮設住宅の備蓄化に向けた提案を進めている。3、4の両日に山梨県早川町で開催された「木のまちサミット」でも、多田欣一住田町長が山林資源循環の観点なども含めながら必要性を強調。今後は政府などと連携、調整を重ねながら実現に向けた運動組織の立ち上げを目指すことにしており、取り組みの行方が注目される。

 

組織立ち上げ見据え

 

 木のまちサミットは、平成26年に住田町で開催されて以来2回目の開催。国や自治体、企業などの各関係者150人が出席し、早川町役場などで行われた。
 3日は基調発表や海外からの報告に続き、課題別に行政や民間事業者らが発表。多田町長は「市町村における循環型森林整備と地域(山村)の活性化への取り組み」の中で提案した。
 5年6カ月前の東日本大震災以降、伊豆大島や広島での豪雨被害、熊本大分地震の大規模な災害が相次ぐ。被災地では、被災者の命と生活を確保する仮設住宅の早期整備が求められる。
 現在、仮設住宅の整備はそのほとんどをプレハブ協会が担っているが、多田町長は何年も生活しなければいけない被災者もいるとし、木造のすぐれた居住環境を強調。一方で木造の欠点は建設のスピード感とし、あらかじめ加工した部材をまとめておくキット化の必要性も指摘する。
 このキットを「木の町」を掲げる国内の自治体10~20カ所に備蓄するよう提案。その経費は国費による災害対策施策として制度化を求める。
 さらには、災害時における木造仮設住宅の建設促進を図るべく、現在22都県の自治体と災害協定を締結している一般社団法人全国木造建設事業協会が全都道府県と結ぶよう尽力することも提案。賛同する自治体などで運動組織を立ち上げるとともに、同協会との連携推進も掲げる。
 新たな木材の活用方策や、森林地域に「資源と資金」の循環を促す観点でも必要性を訴える。町は各自治体などの意思を尊重した「この指とまれ方式」で活動の輪拡大を見据えている中、サミット出席者から理解を得ることができた。

発災直後に着工した木造仮設整備=23年3月、住田町

発災直後に着工した木造仮設整備=23年3月、住田町

 住田町は震災前から、地元の木材や技術を生かそうと災害時に使える木造仮設住宅を検討。平成23年3月11日に襲った未曾有の大津波によって気仙両市では多くの住宅が流され、沿岸部全体をがれきが覆った中、町は3日後に木造仮設住宅の建設を決断した。
 町営住宅や旧幼稚園の各跡地、旧小学校の校庭を利用し3団地に計93戸を整備。火石(世田米、13戸)は4月25日、本町(同、17戸)は5月6日、中上(下有住、63戸)は同23日に完成した。

 プレハブは長屋構造が中心だが、町は戸建て型で整備。2LDKで風呂やトイレを完備し、壁は断熱材を木材で挟む構造とした。
 木造の温かさや香りに加え、戸建ては長屋構造よりも音漏れが少なく、プライバシーが守りやすい利点も。完成後も入居者からの要望に応え、改修工事を進めた。現在は3団地に30世帯73人が入居し、住宅再建に至った入居者らには払い下げも行っている。
 町などでは今後、政府の関係省庁と連携・調整をとりながら、組織立ち上げや備蓄の実現に向けた動きを進める方針。多田町長は「(早期の木造建設は)素材生産から工務店まで一連に流れていなくても、複数の自治体が連携することで可能となる。プレカットして組み立てるだけのものを用意していれば、現地の大工さんをはじめ被災地の雇用を守りながら早期整備が可能となる」と語る。
 さらに「住田町の木造仮設住宅は『やっぱり良かった』という声をいただいている。実際に生活された方の声を生かしながら進めたい」と、発災5年6カ月を迎える中での提案に力を込める。