災害公営住宅の空室活用へ、県が愛育会グループホームへ貸与の方向で調整/陸前高田

▲ 貸与が検討されている県営栃ヶ沢アパートは、公的機関、コンビニが近く、生活の利便性向上や入居者の心的負担緩和が期待される=高田町

 県は陸前高田市の災害公営住宅の空き室を、同市の社会福祉法人・愛育会(菅野高志理事長)に貸し出す方向で調整を進めている。同会は震災で被災した知的障がい者のためのグループホームとして利用したい考え。実現すれば、こうした形で災害公営住宅が活用されるのは全国初になるとみられ、障がい者の生活再建という観点からも先進的な取り組みとして注目されそうだ。同市が提唱する「ノーマライゼーションという言葉のいらないまち」づくりを進めるうえでも大きな意義を果たすことになる。

 

障がい者の生活再建に光

 

 同市と県は市内に895戸の災害公営住宅を整備。被災住民の意向を受けての設置だが、その後に自力再建へ踏み切ったり、市外へ転出する人もおり、辞退者が出ている。
 今回活用が検討されているのは高田町の県営栃ヶ沢アパート。全301戸のうち8月末時点で74戸が空き室となっている。
 こうした空き室を法人として借り上げたいと申請した愛育会は、同市で障害者支援施設ひかみの園、作業所きらりといった福祉事業所を運営。震災前は高田町内のスーパーや商業施設そばに計6カ所の空き家を借り、知的障がい者が地域に交わりながら暮らせるようグループホームを開設していた。
 当時の利用者28人は、市内の作業所で働くなど自立支援を受けながら生活。震災では全員無事だったものの、住まいである六つのホームは津波で流失した。入居者は内陸部の自宅へ戻ったり、一時的にひかみの園へ移るなどしたが、その後はみなし仮設住宅の6部屋で最大21人が生活。現在は30~60代の11人が7室に暮らす。
 11人は全員被災者であり入居条件を満たすことから、同法人は当初、個々に公営住宅の入居申し込みも検討。しかしそれでは部屋の割り当てがバラバラになる可能性が高く、本人たちにとっても生活をサポートする職員らにとっても支障が大きいため、グループホームとしての利用を昨年4月、県に申し入れた。県は検討の結果、公営住宅の「目的外利用」にはあたらないとしてこれを認める方針を固めた。
 同法人理事でひかみの園の菅野正明園長(58)は、「26日には県の方がいらして、おそらく正式な話が進められることになると思う」と説明。決定次第、引っ越しなどの諸手続きを進める。
 菅野園長は「最初はエレベーターを乗り間違えるといったこともあるかもしれないが、アパートの住民の方に理解していただけるよう、しっかりサポートしていきたい」と述べ、震災前のように地域の温かい見守りの中で利用者が過ごせるよう努めるとする。
 一方、「彼らの一番の楽しみは好きなものを買ったりすること。公営住宅はコンビニエンスストアやコミュニティホールも近く、新しいショッピングセンターにも歩いていける距離。買い物やイベントの面でも楽しみが増えるのでは」といい、入居者のストレス軽減や、社会参画の推進にも期待を寄せた。