同級生の体験つづる、聞き書き本 『わたしの友の〔3・11〕』が漫画に/陸前高田ゆかりの中澤さん

▲ 『黒い風 わたしの友の〔3・11〕』の表紙。裏表紙には一本松が描かれる
161021-7津波マンガ発刊カオマル

中澤八千代さん

 

 中学・高校時代を陸前高田市で過ごした中澤八千代さん(70)=宮城県出身、神奈川県相模原市在住=の聞き書き集『わたしの友の〔3・11〕』がこのほど、コミック『黒い風』(画・有我すずな、全231㌻)として幻冬舎より発売された。東日本大震災から5年以上が経過し、小さな子どもたちをはじめ震災を経験していない人が今後増えていく中で、中澤さんは「漫画ならより多くの人に読んでもらえる。震災の実際を〝目〟で見て知ってほしい」としている。

 

「子どもたちにも伝えたい」

 

 『黒い風 わたしの友の〔3・11〕』は、中澤さんが中高時代の同級生から聞き書きした震災体験集を漫画化したもの。全14話構成となっており、タイトルは第8話の『黒い風が吹いた!』にも使われている。真っ黒い波が壁となって目の前に現れた瞬間――人生が何もかも変わってしまったその一瞬を表す言葉だ。
 平成23年、思い出深い陸前高田の地が大津波にのみこまれたことを知ったあと、中澤さんは旧友たちに連絡を取り、そこで数々のつらく悲しい出来事を知った。それと同時に、恐ろしい思いをしながらも前向きに生きようとする友の姿に心打たれたという。
 一方で、発災から時間が経過するにつれて当時を振り返ることが減り、大災害の恐怖や自然への畏敬が薄れていくことに懸念も覚えた。文芸講座に通いエッセーを習っていた中澤さんは、講師からの勧めもあり体験談を書き残そうと決意した。
 10代の多感な時期を共に過ごし、卒業後も仲が良かった仲間たち。その一人ひとりの震災譚(たん)に、中澤さんは改めて耳を傾けた。「私が同級生だからこそ話してくれたのだと思う」という通り、報道だけでは知ることができない壮絶な事実が克明に語られている。
 24年にはこれらを私家版として1冊にまとめ、出版。その後も相模原でチャリティーイベントを開くなど、陸前高田のため尽力してきた。今月14日に行われた催しでは、昨年に続き女優の渡辺美佐子さんが同書を朗読。この会場では初めて『黒い風 わたしの友の〔3・11〕』も販売され好評を博した。
 漫画化は、「震災の年に生まれた子たちが、来年には小学校1年生になる。当時のことを知らない人や、これから先の子どもたちへ伝えていくためにも、より広く読んでもらえる形で残したい」という思いから実現。作画は福島県出身の有我さんが担当した。「かなりわがままにあれこれと要望してしまったのですが、忠実に再現してもらえた」と中澤さんも大満足の出来だ。
 有我さんのタッチは柔らかく優しいが、そこに描かれる悲惨な体験は現実に起きた出来事。地名や施設名、人名もそのままだ。発災当時の状況があまりにも生々しくよみがえり、地元の人は今もまだ直視できないであろう場面も数多く出てくる。 
 しかし自然災害を経験したことがない人、後世の人々へとこの災禍を伝えるためには、現実から目をそらさない勇気も必要だ。聞き書き集と同じくコミック版でも、ラストは「こんなに苦しい、こんなに悲しい、こんなに悔しい、言葉では言い尽くせないほどの現実があったのです。私は忘れない!私は決して忘れない!」という一文で締めくくられており、中澤さんの「この本が〝語り部〟としての1冊になれば」という強い願いが伝わってくる。
 同書は税込み1000円。全国の書店およびアマゾンでも購入でき、売り上げの一部は同市に寄付される。