歴史的景観継承へ第一歩、旧菅野家が国登録有形文化財に/住田町
平成28年11月20日付 1面

住田町世田米の世田米商店街沿いに構える旧菅野家住宅及び土蔵群計6棟が、18日に開かれた文化審議会(馬渕明子会長)で国の登録有形文化財(建造物)にするよう文部科学大臣に答申された。町内での有形文化財登録は初。旧菅野家は、本年度から住民交流拠点施設「まち家 世田米駅」として活用が始まった中、明治期の様相を残す特徴が改めて評価された。町内では、旧菅野家以外にも古き良きたたずまいを残す建物が多く残されており、町は歴史的景観を生かしたまちづくりが広がる第一歩として期待を込める。
世田米の町家様相残す
文化財登録制度は、近年の国土開発や都市計画の進展、生活様式の変化など、社会的評価を受ける間もなく消滅の危機にさらされている多種多様な文化財建造物を継承しようと、平成8年から始まった。今回、新規登録の答申は177件で、累計では1万1040件を数える。
住田町から新たに国登録有形文化財となるのは旧菅野家住宅の主屋、離れに加え、敷地内に構える4棟の蔵。町教委は5月末、文化庁に申請していた。
旧菅野家は、明治後期に建設され、昭和中ごろに増築・改修が行われた。主屋は間口が狭く奥行きが深い構成で、妻入りの町家が建ち並ぶ世田米の景観を象徴づける。表2階の縁側付客座敷のほか、「土間」「みせ」「帳場」「おかみ」「ざしき」と続く1階の構造や意匠など、すぐれた技巧が凝らされた空間が広がる。
敷地内の東側には、離れや土蔵が連なる。土蔵の一つは文庫蔵として豪壮な造りが特徴で、2階の窓回りは黒漆喰で飾られている。明治後期の町家の様相を伝えるとして評価された。
旧菅野家を巡っては、町が平成23年度に策定した中心地域活性化構想、26年度の基本計画に基づき、施設・設備整備の方向性を具体化。地域の歴史、伝統的な魅力を生かした活用を目指してきた。
構造や部材をできる限り当時のまま残す形での改修は、27年度から本格化。レストランやコミュニティカフェ、交流スペース、まちや体験スペース、蔵ギャラリーなどを設置し、世田米地区公民館としての機能も設けた。
主屋などの整備は今年5月31日に終了。4月下旬のプレオープンから9月までの利用者は、カフェが3292人で、このうち町外からの来訪が1776人。レストランは5471人で、カフェと同様に町外来訪者が目立つ。
世田米地区は江戸時代、種山峠を越えて気仙郡に入り、世田米宿から白石峠を越えて盛宿に通じる盛街道の宿場町として栄えた。内陸と沿岸を結ぶ重要な役割を果たし、建設時の姿をとどめる町家は十数棟あるほか、周辺には古き良きたたずまいがある蔵も多い。
今回の登録で町側は、世田米商店街周辺に建ち並ぶ歴史的な建造物に対する関心向上や、景観を生かした交流人口拡大などを見据える。多田欣一町長は「旧菅野家の登録で終わるのではなくて、継承や活用に向けて広がりを見せる第一歩」ととらえる。町教委は年度内に、上有住にある民俗資料館も申請を目指す。