木製のこだわり未来へ、学校用机・いすの新調進める住田町

▲ 小学生用のいす製作に励む松田さん=上有住

中学校に続き、今春には小学校でも

 

 住田町内の小学校に今春、町内産木材で製作を進めてきた新たな机といすが納入される。中学校では昨夏から利用が始まっており、生徒たちの快適な学校生活を支える。地元のスギやアカマツを使い、取り外し可能な天板は卒業時にプレゼントされる計画となっているほか、洗練されたデザインの中でも強度を確保。材料や組み上げに込めたこだわりが、住田っ子の未来を支える。

 

地元産材を地元業者の手で

 

 現在、町内の小中学校は世田米小、世田米中、有住中、有住小の4校体制。各小中学校では平成27年度以前も、町内産スギ材でつくられた木製の学習机といすが使われていた。しかし15年が経過し、天板部分の凹凸が目立つようになるなど劣化が進んでいた。
 町は27年度に木いくプロジェクト推進委員会を発足させ、森林資源を生かした活性化策を検討。将来的な商品化も見据えながら新たなデザインを考えるなど、新調への取り組みを進めてきた。
 「町内産木材を町内業者が加工・生産するスギ・アカマツ製」
 「机の天板は交換が可能であり、天板は卒業時には贈呈され、子どもたち個人の所有となる」
 新たな机・いすに込めたコンセプト。デザインや基本設計は、同プロジェクトの推進委員を務めるナグモデザイン事務所の南雲勝志さん=東京都=が担った。


天板の贈呈に込めた思いは

 

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贈呈式では子どもたちの笑顔があふれた=昨年7月、有住中

 先行的に中学生分132セット(予備分含む)の製作が進められ、昨年7月には有住中で、8月には世田米中でそれぞれ贈呈式が行われた。両校とも、2学期から本格的に使用が始まった。
 有住中での贈呈式に出席した南雲さんは「木は財産であり、先祖の方々が大切に育ててきて今がある。机やいすを、日々大切にしてほしい」と期待を込めた。
 町産アカマツ材による天板製作は、けせんプレカット事業協同組合、天板塗装は村健塗装が請け負っている。コンセプト通り「地産地工」にこだわった。
 卒業時に天板を贈呈するとあらかじめ決めることで、公共的な学習用具が「自分のもの」であり続ける。先人や古里への感謝、物を大切にする心が広がってほしい──。推進委員会を構成する地元内外の大人たちが、新たな机といすに思いを込めた。

 

軽く、スッキリとした印象

 

大人たちのこだわりと願いが詰まった机といすを利用し、学習に励む生徒たち=昨年12月、世田米中

大人たちのこだわりと願いが詰まった机といすを利用し、学習に励む生徒たち=昨年12月、世田米中

 「前よりもスタイリッシュ。机もいすも軽いから清掃などの時に動かしやすいし、服がすれることもなくなった」
 世田米中の菅野さくらさん(2年)は、使い心地をこう語る。
 これまで生徒たちが使っていた机、いすに比べると脚部分などは細くなり、スッキリとした印象を与える。骨太だったものが細くなり、重かったものが軽くなる。デザインを追い求める中でも、安全性は最優先事項。長期間にわたり、子どもたちをしっかりと支え続けなければ、学校用としての役割を果たすことはできない。
 特にいすは、スギ材による脚の先端が内側に寄る構造。これまであまり見られないデザインで、今後の展開では「住田らしさ」になり得る個性と言える。しかし、体重による負荷が中央部分に集中するため、強度確保には工夫を要した。


まわし組みで強度を支える

 

 「内側に入り込んでいて、一つひとつの角度が違うから、真っすぐとはまた違う苦労があった」
 上有住に作業場を構える松田木工所の松田浩久さん(52)。試作を重ね、知恵をしぼりながら、製作を担ってきた。さまざまな仕事依頼に追われながらも、現在は小学生用の製作を進める。
 強度確保のために取り入れたのが「まわし組み」と呼ばれる技術。背もたれを支える脚から座面を支える板が伸び、その板の前面から前脚が出て、底板につながる。負荷を循環させる構造で、熱や乾燥などによって木が悪条件を強いられる製品や設備に用いられてきたとされる。
 一般的には炉口、こたつやぐらなどが挙げられるが、多くは正方形や直角の長方形。今回のいすのように、側面から見た座面下の「四つ角」の角度がすべて異なると、手間が増える。松田さんらはデザインを変えずに強度を求め続け、手仕事によるこだわりの形を完成させた。

 

新たな地域振興策の種にも

 

 小学校用として、年度内には子どもたちの体格に合わせた2~5号の机といす230セット余りが完成する。そのすべてに「SUMITA WOOD WORKS」の焼き印が押される。シンプルなマークだが、住田産材による加工や住田で生きる職人のこだわり、そして住田の将来を担う子どもたちへの期待が込められている。
 木いくプロジェクトでは、本年度から「はぐもっく事業」も展開。新生児の誕生祝い品として、離乳食用の木製スプーンとケースのセット、さらに玩具1点をプレゼントしている。
 製作は世田米在住の木工作家・大村圭さん(42)が担い、住田産材を使い手づくりで丁寧に仕上げる。製品を見聞きした町外在住者から「どうすれば手に入るのか」との問い合わせも寄せられる。現在は、新成人向けの木製品開発も進めている。
 手を抜かず、心を込めてつくったものは、地域を問わず重宝される。地元でのこだわりが外に広がっていくことで、人口減少下でもキラリと光るまちづくりにつながる。子どもたちと同様に、住田らしい地域振興の可能性は、すくすくと成長している。